全米OP、2強に対抗できるのは誰か “錦織世代”のプライドと実力に期待

山口奈緒美

過渡期が訪れようとしている男子テニス界

リオ五輪で銅メダルに輝いた錦織(右端)。この自信と達成感を全米オープンでエネルギーにすることができるだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 男子テニス界に過渡期が訪れようとしている。リオデジャネイロ五輪のメダル表彰式に並んだ3人は、そういう時代を表す顔ぶれだったかもしれない。

 無敵の王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が、実はウィンブルドンから痛めていたという左手首の影響でちょっとしたスランプに陥っている間に、代わって鉄人ぶりを発揮しているアンディ・マリー(イギリス)がウィンブルドンのトロフィーに続いて金メダルを獲得。五輪2連覇という、シングルスでは男女を通じて初の快挙を成し遂げ、王者ジョコビッチとの2強時代の確立を印象づけた。

 それ以上のインパクトがあったのはフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)の銀メダルだ。左手首の故障で約3年間を棒に振った元世界4位は、今年2月にツアー復帰したばかり。これまでも何度か復帰を試みたが、数大会出場するだけでケガの再発などにより、ことごとく失敗に終わっていた。ウィンブルドンでは、現在、世界ランキング3位のスタン・ワウリンカ(スイス)を破るなど、20歳で全米オープンを制した実力を発揮しはじめてはいたが、今回ジョコビッチとラファエル・ナダル(スペイン)を破り、マリーと死闘を繰り広げたことで、完全復活ののろしをあげたと言っていい。

 そして銅メダルが、日本のテニス界に1920年以来の五輪でのメダルをもたらした錦織圭(日清食品)だ。「96年ぶり」ということが、ことさら大きく取り上げられたが、世界のテニスの流れの中でそのことはあまり意味を持たないだろう。それよりも、18歳での衝撃デビューから8年、多くのケガに悩まされながらも特にこの数年はいつも「いい位置」をキープしている錦織が、銅メダルという、かたちでその存在をあらためてアピールしたことが大きい。
「銅とはいえ、メダルを取れてうれしい。国の名前を背負って戦った経験はこれからの自信になる」と言うが、グランドスラムの準優勝が1回、マスターズシリーズの準優勝は3回……あと一息のところでビッグタイトルに手が届いていない26歳は、この銅メダルの自信と達成感をエネルギーにしてこれからどう殻を破っていくだろうか。

見えてきた“ビッグ4”崩壊の兆候

 出場資格の基準となる6月6日時点のランキングからトップ10のうち5人が辞退した五輪ではあったが、このメダリスト3人は全米オープンのキーパーソンにもなると考えられる。もちろん五輪の結果のみで全米オープンを展望することはできないが、確実な兆候は“ビッグ4”の崩壊だろう。彼らは歴史の上ではまだ絶大な力を持ち、築いてきた実績で他を寄せつけないが、今後を占うという点では今や支配的な立場にない。

 これまでも、4人のうちの誰かが10位あたりまでランキングを落とすなどして堅固な壁が揺らいだことはあったが、それと今との決定的な違いは、ロジャー・フェデラー(スイス)が「いない」ということだ。グランドスラム優勝17回の現役レジェンドは、2月に膝の手術をし、いったんは復帰してウィンブルドンでは準決勝に進出したが、完治を目指して今シーズンいっぱいは全ての大会を欠場することを発表した。来季復帰を誓っているが、それが叶うかどうかは現時点では不透明である。

 そしてもう一人、ナダルもまた、手首の故障からの病み上がりの状態だ。約2カ月ぶりの復帰戦となった五輪でベスト4、ダブルスでは金メダルを獲得するなど、万全ではない中で大きな収穫とある程度の手応えを得たが、同時に、デルポトロや錦織相手にラリー戦で打ち負ける場面が多く、やはりこの2年の間、グランドスラムの準々決勝を一度も突破できていない現状も表していた。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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