大阪での初取材、感じた“ホーム”の愛情 ライター島崎が語るJリーグの魅力(2)

島崎英純

サッカーにおける“ホーム”とは?

ほぼ初めての取材経験で感じたのは、サッカーにおける“ホーム”の大切さでした 【写真:アフロスポーツ】

 G大阪vs.鹿島のゲームは3−1でホームチームが勝利! ニーノ・ブーレ! ビタウ! ビタウ! 何かの暗号じゃないですよ。ガンバの得点者を連呼しただけです。

 この日のハイライトは試合後にありました。この夜をもって大阪を離れる稲本選手がピッチへ登場し、スタンドに集うサポーターの皆さんにあいさつしています。稲本選手は鹿児島県出身ですが、生後まもなく両親が大阪府堺市へ移り住み、幼少時代からサッカーに情熱を傾け、G大阪ジュニアユース、同ユースを経てトップチームに加わったクラブ生え抜きの選手です。そんなガンバの象徴が海外へ旅立つに際し、サポーターたちが前途を祝福しています。

 実は僕もG大阪にはまったく疎いくせに、アストロビジョンで流れた稲本選手の同期・新井場徹選手(現・FCティアモ枚方オーナー)のビデオメッセージを見て感涙してました。仲間との絆って尊いですね。

 万博の観客席からは幾つもの声が飛んでいました。稲本選手を労う言葉、励ます言葉、鼓舞する言葉。涙で声を枯らしながらも、何かを伝えずにはいられない。それがJリーグのクラブをサポートし、それと同時に若い選手の成長の過程を見つめてきた方々に得られる、最高の宝物なのではないでしょうか。

 2万1598人の大観衆は圧倒的なパワーでホームチームに声援を送り、勝利を導き、かけがえのない選手に最高の花道を授けました。これから試合レポートを約1時間30分で書かなければならない僕は、そんな任務も忘れてメーンスタンド上方にある白い記者席に佇み、しばし余韻に浸っていました。

 その時、思ったのです。サッカーという競技における“ホーム”って、こういうことなんだと。チームをサポートするサポーターの声に大小はありませんが、その土地に立ち、その風土で育まれる中で形成されるもの。時には声援だけでなく、叱咤(しった)激励や厳しい言葉も飛び交うかもしれません。それもすべて受け入れた上で、帰るべき場所、味方・仲間が居てくれる場所、それがサッカーにおける“ホーム”。ほぼ初めての取材体験で、僕はそれを深く思いめぐらせたのでした。

初のサッカー取材はかけがえのない一日に

 試合後、先輩記者行きつけの十三(じゅうそうと読みます)の街で焼肉屋に入りました。まったく臨場感のある試合レポートを書けずに打ちひしがれている新人記者をよそに、先輩記者と先輩カメラマンが気持ち良さそうにビールを流し入れています。焼肉屋のおばちゃんが「はい」と、僕の前に薄紅色のお肉を置きました。何でしょう、これ? 見たことのない形をしています。

「おばちゃん、これは何て肉?」と聞くと、「トントロやで」とのこと。そう、豚の首肉の部位である「豚トロ」を、僕が生涯で初めて目にした瞬間でした。01年当時の東京では、少なくとも僕はお目に掛かったことがありませんでした。おばちゃんが言います。「大阪はホルモンの街やから、どんな部位でも美味しく頂くんよ。旨いから食べてみて」

 美味しい、本当に美味しい。大阪って美味しいなあ。たこ焼きやお好み焼きはもちろんのこと、串揚げも最高だし、こっちのうどんの出汁は上品で、僕は関東よりこっちの味付けの方が好きだなあ。でも、よく考えたら焼き肉以外、全部粉もんじゃん……。なんて、どうでも良いことを考えながら、初めてのサッカー取材遠征を経て、僕は記者として、そして一サッカーファンとして、かけがえのない一日を過ごしたのでした。

浦和レッズは神戸との3連戦! ノエスタでの成績は……

09年は吉田選手に2得点を奪われました 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 生まれて初めて執筆した試合レポートが掲載された雑誌は、今も僕の手元にあります。稲本選手が両手を挙げてサポーターに別れを告げている表紙。当時の僕の原稿は読み返す度に恥ずかしくなるような出来栄えです。でも、これが僕の原点。そして鮮明に覚えている。漆黒の空、青い横断幕に書かれた言葉、人々の声と涙、ピッチで躍動する選手たち。何百試合とJリーグを取材・観戦しても、それぞれの“ホーム”は空気が異なります。

 さて、僕の取材活動のメーンフィールドである浦和レッズは、今週末からヴィッセル神戸とJリーグ、ルヴァンカップの3連戦が控えています。とりあえず直近のJリーグ、ノエビアスタジアム神戸(旧名・神戸ウイングスタジアム)での浦和の戦績を調べておこうかな。1勝2分け6敗……。えっ、浦和って、ノエビアで1回しか勝ってないじゃん! 05年5月4日のゲームから11年も勝ってないの? その時のレッズの得点者は、田中達也選手(現アルビレックス新潟)か。

 うーむ、よし、今度は神戸の“ホーム”について思い返してみよう。08年は吉田孝行選手(現神戸ヘッドコーチ)にゴールを決められて、翌年の09年は吉田選手に2得点されて……。えっと、多分吉田孝行さんは神戸のコーチとして週末の試合にいるから、試合後に本人を捕まえて問い詰めてみよう。うん、そうしよう。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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