ペルシャの地で触れた外国人サポの“熱” ライター島崎が語るJリーグの魅力(1)

島崎英純

Jリーグの魅力とは一体何なのでしょうか? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 この度、『スポーツナビ』さんにて、短期連載の執筆をさせて頂くことになりました。連載のテーマはすばり、「Jリーグの魅力について」。うーん、何とも抽象的なお題目です。僕みたいな一介のフリーランスが、そんな高尚なことを語れるのでしょうか。不安になります……。

 Jリーグの魅力って何なんでしょうか?

 この職業についてから、あまり意識したことがありませんでした。僕にとってJリーグは、常に自らの傍らに存在し続けていましたから。でも、それは僕がJリーグでも屈指の人気クラブと称される浦和レッズを中心に取材活動をしてきたからなのかもしれません。例えば、かつての横浜フリューゲルスのように、Jリーグにはクラブ自体が消滅してしまったケースもあります。そういえばレッズも最近筆頭株主の都合で『身売り話』なんて話題も提供しましたよね。

 僕のような者がどれだけのことを語れるか見当もつきませんが、僕自身がこれまでJリーグを通して体験してきたことをそのまま記してみようと思い至りました。Jリーグをテーマとしながら、そこはかとなく『レッズ臭』が漂うかもしれませんが、そこは緩くご容赦ください。

 この連載を通して僕自身もJリーグの魅力を再確認できたら、そしてJリーグ各クラブのサポーターの方々や、これからJリーグに興味を持って頂ける方々と少しでもJリーグの『熱』を共有できたらと思っております。短い期間ですが、どうかしばらくお付き合いください。

 第1回となる今回は、Jリーグクラブがアジアの頂点を目指すAFCチャンピオンズリーグの取材で出会った、”ある”Jリーグチームのサポーターから感じたJリーグの『熱』について記したいと思います。

今から9年前の2007年、イスファハンの街で

ACL決勝に進出した浦和の取材をするため、セパハンのホームスタジアムを訪れました 【島崎英純】

 今から約9年前の2007年11月初頭。僕はイランのイスファハンという街にいました。なぜ僕がこんな遠き彼の地まで来たのかというと、浦和がACLで決勝に進出し、西アジア地区を勝ち上がったイランのフーラッド・モバラケ・セパハンFC(以下、セパハン)というクラブとホーム&アウェー戦を戦うことになったからです。

 日本からイスファハンまでは直行便がなく、UAEのドバイ国際空港から乗り継ぎましたが、いやはや、大変な行程でした。

 現地でイランの現地通貨であるイランリヤルに換金しようと銀行に行き、「4日間の取材だから2万円くらい換金すればいいかな」と窓口のお姉さんに2万円を渡したら、両手で抱えきれないくらいの紙幣を積み上げられ、慌てて外に横付けしたタクシーへ駆け込みました。当時のイランは強烈なインフレーションにより、通貨価値が下落していたんですね。当時のレートでは、市内の高級レストランでお腹いっぱい食事をしても約500円で済むくらいだったので、2万円も換金したら大変なことになってしまったのでした。

 また、当時のイランは宿泊ホテルや街中にWi−Fi環境などはなく、ホテルの部屋の電話回線を探しても見つからず、モジュラージャックらしき配電盤をドライバーでこじ開けて無理やり回線を引っ張り出したりもしました。だって、そうしなければ日本へ原稿を送信できないんです……。そもそも、当時のイランは米国などの欧米諸国と激しく対立しておりまして、欧米文化がまったく入り込んでおらず。しかも、言語がペルシャ語という未知の領域。日本人取材者にとってはなかなか手ごわい環境だったのです。

 そしてイランはイスラム教国家なので、戒律でアルコールは厳禁とされていました。当然、飲食店にもノンアルコールのビールしか置いていません。ただ、当時のノンアルコールビールは微量ですがアルコールが含まれていて、350ミリリットルのビール缶を10本くらい空けたらいい気分になって、千鳥足で世界遺産のモスク周辺を歩き回ったりもしました(結構楽しんでますね、僕)。

熱烈なフロンターレサポーター、マハディくんとの出会い

「ケンゴの美しい軌道を描く右足のキックには惚れ惚れするよ」と語るマハディくん(写真) 【島崎英純】

 イスファハンはかつて、『世界の半分』と称されるほど繁栄した古(いにしえ)の街です。新市街にあるイマーム広場にはイマーム・モスクという有名なイスラム建築の教会があり、世界遺産にも登録されている風光明媚(めいび)な場所でもあります。

 でも、やはり僕らのような日本人が当地を訪れるのはめずらしいらしく、街中を歩いているとしょっちゅう現地の方々から声を掛けられました。イランの方々は基本的に親日で、たいてい笑顔であいさつをしてくれます。だから、こちらもついうれしくなって会話を交わしたりしちゃうんですよね。

 そんな中、街の中心部を流れるザーヤンデ川に掛かるスィー・オ・セ橋のたもとにあるオープンエアのカフェでイラン紅茶を嗜んでいると、若者が僕のところへ寄って来て「Are you Japanese?」と話しかけてきました。イランの方はほとんど英語がしゃべれないのでめずらしいなと思い「Yes」と返すと、彼が「もしかして、ACLを見に来たの?」と言うではありませんか。

「いや、僕は記者なので取材に来ました」と言うと、彼は驚いたような表情を浮かべ、「それなら、当然ナカムラのことは知っているよね?」と語りかけてきました。おもむろに「中村俊輔(当時の彼の所属はセルティック/スコットランド)のことね」と返すと、「違う! ナカムラと言ったらケンゴのことに決まってるだろ!」と一喝。なんと彼は、熱烈な川崎フロンターレサポーターだったのです。

 そのマハディくん(仮名)、実はイラン人ではなく隣国のアフガニスタンからわざわざACLの試合を見に来たのだと言います。当時のアフガニスタンでどのようにJリーグの試合を視聴していたのか聞くと、何やらゴニョゴニョとイリーガルな言葉を発したので、ここは省略。いずれにしても、彼は熱狂的なフロンターレ好きらしく、僕に対して延々と中村憲剛選手の素晴らしさを説明します。

「ケンゴの、あのエレガントなボール扱いはファン・カルロス・バレロン(かつてアトレティコ・マドリーやラ・コルーニャで活躍したスペイン人MF)に匹敵するね。美しい軌道を描く右足のキックには惚れ惚れするよ。ちなみに日本最高のDFは伊藤宏樹で、これに異論の余地はないよ」

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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