勝利で得た勢いを持ってブラジル戦へ 大山加奈が女子バレー第2戦を解説

田中夕子

グループリーグ第2戦のカメルーンに勝利した全日本女子 【写真:ロイター/アフロ】

 リオデジャネイロ五輪のバレーボール全日本女子は日本時間8日(以下同)、グループリーグ第2戦となるカメルーン戦に臨んだ。1試合目の韓国戦に敗れ、何としても勝利が必要だった日本だが、この日はカメルーンに1セットも奪われることなく、セットカウント3−0のストレート勝ち。リオ五輪での初勝利を飾った。

 今回のカメルーン戦について、2004年のアテネ五輪に出場し、現在はバレーボール中継の解説などを務める大山加奈さんに振り返ってもらった。

いい働きをした途中交代選手

韓国戦に続き、日本の得点源となった長岡 【写真:ロイター/アフロ】

 田代(佳奈美)選手、頑張りましたね。

 第2セットの途中から入って、ゆったりしたトスをうまく間を使って上げていたので、スパイカーに余裕ができたように感じられました。序盤から、宮下(遥)選手がミドルを使う姿勢を見せていたことに加え、田代選手の上げる間がとても効果的だったので、最後までミドルに上げるのか、サイドに上げるのかも分かりづらかったので、相手ブロッカーも「ミドルがあるのではないか」と警戒していて、ブロックが分散した状況で攻撃が仕掛けられていました。低いボールや苦しいボールも、ボールの下に潜り込んでオーバーハンドでトスを上げていたことも、とても良かった点だったのではないでしょうか。

 田代選手だけでなく、途中で入った山口(舞)選手、迫田(さおり)選手もとてもいい働きをしていました。特に迫田選手はサーブから入るのですが、常にサーブで崩してブレークポイントを取る。これはなかなかできることではありません。コートに入る顔つきを見ていても、非常に良い表情で、1本のサーブに集中していました。韓国戦の終盤もそうですが、迫田選手はカメルーン戦でもチームに勢いを与えるプレーをしていましたね。

 迫田選手と交代する長岡(望悠)選手も、韓国戦同様、カメルーン戦も非常に良いスパイクを打っていました。決して簡単ではない状況でのトスも、うまく相手ブロッカーやディフェンスを見ながら打ち分けていますし、ハイセットからの攻撃も正面に打つだけでなく打ち方を考えながらうまく決めていました。長岡選手があれだけ決めれば、攻撃の柱として組み立てやすくなり、木村(沙織)選手、石井(優希)選手も楽になる。今大会、好調を保っている長岡選手の存在は日本にとって非常に大きな力になっているのは間違いありません。

ミスによる失点が目立った

快勝ながら、細かいミスも目立ち、次戦以降の課題も見られた 【写真:ロイター/アフロ】

 何よりも、韓国戦で敗れたショックを払拭(ふっしょく)し、3−0のストレートで勝てたことがこの試合では一番大きな要素でしたが、「勝った」という成果だけでなく、次のブラジル戦(11日)、さらにその次のロシア戦(13日)や準々決勝以降を考えると、やはり課題も多くあります。

 カメルーン戦で、特に目立ったのがダイレクトボールのミスです。

 日本が勝つためにはサーブで相手を崩し、主導権を握ることが必須条件なのですが、カメルーン戦では、せっかくサーブで崩しているにもかかわらず、ダイレクトボールを安易に処理する場面や、ミスで取れる得点を失っている場面も目立ちました。

 今回が初対決となったカメルーン、ランキングでは確かに格下の相手(世界ランク28位、日本は5位)ではありましたが、ミドルもうまく絡めた攻撃を展開し、想像以上に良いバレーをする、応援したくなるようなチームでした。相手の勢いに押されたことや、韓国戦のショックを引きずっているのか、まだ硬さが目立ったこともあり、拮抗(きっこう)した展開が続き、カメルーンにリードされる場面もありました。

 要因は1つではありませんが、サーブで崩しているにもかかわらず、取れるべき場面、取らなければならない場面で得点が取り切れない。細かなプレーかもしれませんが、今後、ブラジルやロシアのような強豪国と対戦する際には致命的にもなりかねない要素です。

 そしてもう1つ気になったのは、第1セットでカメルーンに2度、サービスエースを取られた場面です。ローテーションの関係もあるとは思いますが、2本とも、石井選手の周辺、人と人の間や前後を狙われています。ウィングスパイカーの石井選手は、相手からすれば崩したいターゲットであるのですが、韓国戦の中盤でサーブに崩されるケースが目立ったせいか、守備範囲が狭くなり、どこか消極的に見えました。対角に入る木村選手もカバーしていましたが、木村選手の守備範囲が広くなる分、本来なら難なく返せるサーブが乱れる場面もありました。

 レセプション(サーブレシーブ)が崩され、ハイセットからでもカメルーンに対しては攻撃も通りましたが、世界ナンバーワンと言ってもいいブラジルのブロックに対して同じことが通用するはずがありません。韓国戦に敗れたショックは大きなものでしたが、カメルーンに勝ち、1勝を挙げることができたので、「もう絶対に負けられない」というプレッシャーからも解放されたはず。レセプションも、攻撃参加に対する意識ももっと積極的に臨まなければ、簡単に跳ね返す力を持っているのが次の対戦相手であるブラジルです。長岡選手の調子が良いとはいえ、長岡選手ばかりに偏るのではなく、ミドルを使うことはもちろんですが、木村選手、石井選手のバックアタックも積極的に仕掛けてほしいですね。

ブラジル戦はリードブロックの徹底が必要

 ブロック力だけでなく、ブラジルは攻撃力も非常に高く、サーブで崩すことができなければ、どこからでも攻撃をしかけてくるチームです。

 攻撃力の高い相手に対して、ブロッカーは1本で仕留めるブロックを狙いがちですが、読みや直感でやみくもにブロックへ跳んでしまうと、むしろ相手の思うツボ。キルブロックを狙うのではなく、確実にワンタッチを取るためにセッターが上げるのを見てから跳ぶリードブロックを徹底すること、後ろにいる選手が少しでも拾いやすいようにコースを塞ぐこと。1本で決めようとするのではなく、次のプレーにつなぐ、その意識を持ち続けることも大切です。

 ここまでの2試合は午前中に行われる試合でしたが、ブラジル戦は夜中に行われる(現地時間22時35分開始予定)、相手のホームゲームです。バレーボール人気が高いブラジルでの一戦、おそらく会場も超満員になることでしょう。空気にのまれることなく、やるべきことを徹底する。カメルーン戦の勝利で得た勢いや自信を持って、ブラジル戦に臨んでほしいですね。
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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