葛藤に揺れた1年と東京五輪への決意 上野由岐子 ソフトボール復活に寄せて

田尻耕太郎
 6月、ソフトボール日本女子代表は、東京ドームで米国代表と親善試合を行った。上野は故障のために出場できなかったが、3万1000人以上の観客を動員する大盛況だった。北京五輪の金メダルから8年。日本ソフトボール界の現況、そして「東京」での「五輪連覇」へ、上野はどう見ているのか。

みんなの目の色がまた変わる

「まだ成長していくんじゃないかって、手応えは感じてる」と語る上野。日本の“エース”として、腹は決まった 【Getty Images】

 東京ドームのお客さんの数は、正直想定外。びっくりしました。ソフトボール競技史上、最多じゃないですか? 東京ドームでの試合も初めてだったし。驚きはもちろん、うれしかったです。

 私はけがをしていてベンチにも入らなかったので、現地にはいませんでした。ポスターのど真ん中に大きく映っておきながら上野本人がいないなんて、本当に申し訳なく思いましたけど。

 ウチの選手(ビックカメラ女子ソフトボール高崎)も何人か出場していたので、ほかの同僚は応援に行ったんですが、帰ってきてみんな大興奮でした。「ほかの(日本リーグの)チームも来ていたと思うけど、スタンドを見渡しても誰がどこにいるか分からなかった。こんなの初めてです」とか、「後ろに座っていた女性たちは、たぶんソフトボールのこと何にも知らない。なのに球場に見に来るってスゴくないですか?」って大騒ぎでした。

 注目度が上がるのは本当にうれしいし、今ソフトボールをしている中高生世代も東京五輪を目指せる年齢なので、夢ができることで気持ちが変わっていくと思います。たくさんの相乗効果が生まれていけばいいなと思います。

 また、日本のソフトボール自体も、北京五輪の金メダル以降はレベルが上がったと感じています。1つは日本リーグでプレーする外国人の数が増えました。変わった点で言えば変化球です。以前の日本リーグの投手はストレートとチェンジアップが主体で、コントロールを重視する投手がほとんどでした。しかし、体の大きな外国人バッターはボール球でもホームランにしちゃいます。それで変化球を勝負球にしなくてはいけなくなった。カーブやシュートはもちろん、ドロップやライズも。横にも縦にもボールを動かして抑える。そうなれば、打者も対応するようになっていき、選球眼も良くなりました。ストレートだって100キロ以上のボールを投げる日本人が何人もいます。外国よりも多いと思います。

 ただ、五輪種目じゃなくなってからは、選手の日の丸に対する士気はやはり下がっていました。昔は「ジャパン」に入るんだという、それぞれのライバル心がすごかった。今回、五輪種目に復活したことでみんなの目の色がまた変わっていくと思います。

まだ成長していく手応え感じる

 私自身のピッチングも、以前に比べたらすごく余裕ができています。北京の頃は力勝負という思いが先行していました。今は、変化球だけでもいいんじゃないとか、別に三振をとらなくてもとか、味方が2点取っているなら1失点はいいやとか、そういう心の余裕がすごくあります。

 北京五輪から8年間やってきて、まだ成長していくんじゃないかって、手応えは感じてるんですよ。まだ、ここで終わらなくてもいいんじゃないかなって。若いときみたいにグーンとは伸びないですけど、ちょっとずつでも変わってきてるよなって思える。やっぱりソフトボールからは離れられないのかなと感じる自分もいるんです(笑)。

 待ちに待った、五輪でのソフトボール種目復活です。ソフトボール界にとっては良いことだらけです。1つのヤマは越えました。じゃあどうやって勝つか。東京で金を取るか。それを考えるスタートラインに立ったんです。ほかのどの国も同じ目標へ前進していきます。遅れないように、一歩も二歩も先に行かないと。勝つために。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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