葛藤に揺れた1年と東京五輪への決意 上野由岐子 ソフトボール復活に寄せて
みんなの目の色がまた変わる
「まだ成長していくんじゃないかって、手応えは感じてる」と語る上野。日本の“エース”として、腹は決まった 【Getty Images】
私はけがをしていてベンチにも入らなかったので、現地にはいませんでした。ポスターのど真ん中に大きく映っておきながら上野本人がいないなんて、本当に申し訳なく思いましたけど。
ウチの選手(ビックカメラ女子ソフトボール高崎)も何人か出場していたので、ほかの同僚は応援に行ったんですが、帰ってきてみんな大興奮でした。「ほかの(日本リーグの)チームも来ていたと思うけど、スタンドを見渡しても誰がどこにいるか分からなかった。こんなの初めてです」とか、「後ろに座っていた女性たちは、たぶんソフトボールのこと何にも知らない。なのに球場に見に来るってスゴくないですか?」って大騒ぎでした。
注目度が上がるのは本当にうれしいし、今ソフトボールをしている中高生世代も東京五輪を目指せる年齢なので、夢ができることで気持ちが変わっていくと思います。たくさんの相乗効果が生まれていけばいいなと思います。
また、日本のソフトボール自体も、北京五輪の金メダル以降はレベルが上がったと感じています。1つは日本リーグでプレーする外国人の数が増えました。変わった点で言えば変化球です。以前の日本リーグの投手はストレートとチェンジアップが主体で、コントロールを重視する投手がほとんどでした。しかし、体の大きな外国人バッターはボール球でもホームランにしちゃいます。それで変化球を勝負球にしなくてはいけなくなった。カーブやシュートはもちろん、ドロップやライズも。横にも縦にもボールを動かして抑える。そうなれば、打者も対応するようになっていき、選球眼も良くなりました。ストレートだって100キロ以上のボールを投げる日本人が何人もいます。外国よりも多いと思います。
ただ、五輪種目じゃなくなってからは、選手の日の丸に対する士気はやはり下がっていました。昔は「ジャパン」に入るんだという、それぞれのライバル心がすごかった。今回、五輪種目に復活したことでみんなの目の色がまた変わっていくと思います。
まだ成長していく手応え感じる
北京五輪から8年間やってきて、まだ成長していくんじゃないかって、手応えは感じてるんですよ。まだ、ここで終わらなくてもいいんじゃないかなって。若いときみたいにグーンとは伸びないですけど、ちょっとずつでも変わってきてるよなって思える。やっぱりソフトボールからは離れられないのかなと感じる自分もいるんです(笑)。
待ちに待った、五輪でのソフトボール種目復活です。ソフトボール界にとっては良いことだらけです。1つのヤマは越えました。じゃあどうやって勝つか。東京で金を取るか。それを考えるスタートラインに立ったんです。ほかのどの国も同じ目標へ前進していきます。遅れないように、一歩も二歩も先に行かないと。勝つために。