空手界のヒロインが抱く“夢” 植草歩「五輪で金、メジャー競技へ」
名実ともに空手界のシンボルに
植草は2015年全日本空手道選手権大会、女子組手を制した 【写真:アフロスポーツ】
大学4年の時に負けて、すごく悔しく、そのときは「あれだけ努力したのに何で勝てなかったんだろう」と思ったりもしました。ただ、勝ちを焦って守りに入った自分もいたので、昨年1年間、そこを改善するために環境も変えて、食事とかトレーニングとか、いろいろなことで、どの選手にも負けないように心掛けてきました。そこに、五輪の追加競技という話もついてきて、たくさん自分を取り上げてくれたんで、「テレビに出てるから負けたんだ」とは絶対言われたくなかったです。取り上げられているからこそ、成績も出したかったし、小さな子供たちの前でキラキラ輝く選手でいたかったので、そこは自分たちの力になったかなと思います。
――名実ともに空手界を背負っていく立場になったが、プレッシャーはないのか?
たくさんの人が期待してくれて、たくさんのメディアが自分を追いかけてくれたということで「プレッシャーじゃないの?」とたくさんの人に言われたんですが、他人は期待しか与えないと思うので、プレッシャーと取るかは自分次第だと思っています。その期待を力に変えられたのが、昨年の全日本の優勝でした。空手を知ったら、自分を応援してくれる人も増えると思うので、たくさんの応援を力に変えられたらと思います。
――今は空手を知ってもらいたいという気持ちが強いですか?
“板割り”だけが空手じゃないし、自分たちがやっている空手も十分面白い、魅力があるので、そこもきちんと見てほしいなと思います。
――ズバリ空手の魅力とは何ですか?
武道とスポーツをうまく融合したのが空手だと思うので、スポーツマンシップにのっとったルールもありますし、一方で、武道としての「礼に始まり、礼に終わる」という「道」の部分もあります。スポーツに偏りすぎず、武道にも偏りすぎず、そこが五輪の競技に入った部分だと思います。
世界で愛される空手の魅力とは?
空手には技のキレなどを競う「形」と対戦形式で行う「組手」の2種目がある 【スポーツナビ】
形はフィギュアスケートのように、「きれいだな」「すごいな」と思えるものだと思います。架空の相手を想定して演武しているので、力強さやしなやかさ、個人個人によって細かな動きも違う。1つ1つの技が止まっていたり、指先まできちんと動かしたり、足の位置・立ち方とか、細かいところまで気を付けて行います。
組手は技の多彩性、突きだけじゃなく、蹴り、蹴りの中でもいろいろな種類もありますし、投げ技もあります。選手間の攻防も面白いと思いますね。あと、(相手の体に)当ててはいけないのですが、スピードも速いので、観てもらえば「すごいな」と感じてもらえると思います。
――植草選手の得意技、アピールポイントを教えてください。
得意技は中段突きです。私の場合、相手の懐に、より深く、長く入ることができます。
――トップ選手になると距離感が違う部分なのでしょうか?
やはり(懐に)入るスピードも大事ですし、間合いが近くて突きを決めきれなかったら、ポイントにならないので、相手の懐に飛び込んできちんと決めることが大事です。そこまで決めることを「残心」と言いますが、残心のある技を出すことが必要になります。
――五輪が決まり、さらに海外普及が進むことで、競争が激しくなる可能性もあります。
中段突きだけに偏らないで、もっと自分の技の多彩性を増やしていくことで、もっと世界で通用する選手になると思いますね。
――空手は世界でも愛され、普及している日本の武道だと思いますが、世界の人たちから愛される理由はどこだと思いますか?
武道という意味でも「礼儀」がかっこいいと思われていると思います。海外の先生にも「押忍(おす)、先生」とあいさつしますし、審判の先生にも「押忍、先生」と話します。言葉は全部、日本語です。日本の先生がやってきた、伝統的なあいさつとか礼儀作法は海外にも伝わっているので、良いことだなと思います。