トヨタ自動車を都市対抗初Vに導いた右腕 佐竹功年が晴らした11年間の悔しい思い

楊順行

敵将も脱帽する自在な投球術

テークバックの小さい独特な投球フォームから自在な投球術を披露。今大会2完封を含む4勝、防御率0.30と絶対的な安定感を誇った 【写真は共同】

 佐竹は、立ち上がりから飛ばす。小さなテークバックから内外、高低、緩急……を丁寧に投げ分け、2回まで5三振。樺澤健の一発などで、トヨタ2点リードの4回だ。1死一、三塁で重量打線を迎えるピンチは、5番・中村良憲を直球で詰まらせ(セカンドフライ)、続く田中政則は変化球でセカンドゴロに打ち取る。さらに毎回のように走者を背負うが、「真っすぐかチェンジアップ、どちらかに絞ったが、どちらも腕の振りが同じで手が出なかった」(和久井勇人監督)と、敵将も脱帽する自在な投球術で決定打を許さない。

 佐竹は言う。

「みんなが点を取ってくれた。“勝ち越されなければいい”という気持ちで投げられた」

同期の一打に「うるっときた」

 そんな大エースが、ちらりと本心をのぞかせたのは7回のことだ。代打に備える坂田篤彦に「頼む、1点取ってくれ」。3点リードながら、イニングが進み、優勝に近づくごとに募る重圧。もう1点あればギアチェンジできる、そんな思いだろう。そして――2死二塁で代打に起用されたその坂田が、レフトへのタイムリー二塁打で大きな大きな1点をプレゼントすることになる。

 2人は、同期生。しかも坂田は尽誠学園高、佐竹は土庄高と、高校時代は同じ香川でしのぎを削ってきた間柄で、「甲子園常連の坂田”さん”のチームは、見上げるような存在だった」と佐竹が言えば、坂田も「佐竹はそのころから、超有名なピッチャー」と立てる。

 大学(佐竹は早大、坂田は関大)を経て進んだトヨタで、チームメイトとなった。現主将の佐竹に対して、元主将の坂田。このチームでは控えに甘んじても腐らず、試合前には束ね役を買って出て、ベンチでは大きな声を出してきた。そういう坂田の今大会初打席でのタイムリーに、佐竹は「うるっと泣きそうに」なったが、これ以上ない援護でもあった。

日本選手権4度Vも初の黒獅子旗

「今日のピッチングは100点。常勝トヨタを築いていきたい」と佐竹。5試合で19得点に対し、失点わずか2、無失策も特筆だ。がっちりと投打が、そしてベテランと若手がかみ合ったトヨタ自動車。日本選手権で4回の優勝がありながら、都市対抗ではなぜか勝てなかった強豪が、ついに黒獅子旗を手にした。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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