リオで「日本の皆さんに恩返しを」 日系ブラジル人ハードラーが秘めた思い

加藤康博

ロンドンは落選、磨いた技術

4年前のロンドン五輪は落選。その悔しさを胸に練習を重ねてきた 【加藤康博】

 2009年に48秒67の自己ベストを出し、この年の世界リスト15位の成績を残した。だが2012年ロンドン五輪はブラジル陸連が定めた代表派遣設定記録に届かず、出場を逃している。そこから4年。杉町はリオに向け、ひたすら“自分の400メートルハードル”に磨きをかけてきた。

「ハードリング技術は確実に上がりました。自分はもともと走り高跳びを左足で踏み切っていたため、ハードルも左足で踏み切るほうが得意。でも最近は逆の右足もかなり上達し、全体的に無駄のないハードリングができるようになりました。レース中でも状況に合わせてどちらの足で踏み切るか、瞬時に判断して対応できています」

 そして杉町の最大の武器はストライドの広い走り。前半からグイグイと攻めていくように見えるが、本人の意識ではそこでは力を使わない。「前半は流れを作り、後半で上げていくイメージ」が理想のパターンだ。今季は5月の東日本実業団選手権で自身3度目、3年ぶりの48秒台となる48秒96。自己ベストには届かなかったが、地力の向上を再確認できたレースだった。

「去年はトレーニングがしっかりできていたにもかかわらず、記録が停滞しました。それは”記録を出さなければいけない“という気持ちが強すぎて、レースでも無駄な力を使っていたから。今年は昨年以上の強度のトレーニングをこなしているうえに、去年の反省から精神的にもゆとりをもってレースを走れています。加えて今年、日本では野澤選手(啓佑、ミズノ)が常に自分より速いタイムで走っている。自分の場合、強い相手がいて、そこに挑戦する状況が良い結果につながるんです。それがタイムが出ている要因ですね」

 現在、選手として活動しているだけでなく母校で指導者も務めている杉町。その経験から自分のパフォーマンスを客観的に見られるようになったことも競技力向上につながっていると話す。

楽しそうに走る姿を見てほしい

 7月3日。正式にブラジル代表として決定した。母国で走る五輪が間もなくやってくる。2008年の北京五輪だけでなく、その後の2011年テグ、2013年モスクワと2回の世界選手権も準決勝で敗退。今大会ではあとひとつ上のラウンドに進み、決勝進出が目標だ。

「言うまでもなく準決勝でしっかり力を出さないと決勝にはいけません。でもそのためには予選で良い走りをして上位で通過し、準決勝で真ん中のレーンをもらうことが大切です。外側のレーンであれば苦手意識はないのですが、内側は周りが見えすぎてしまうので、そこは避けたい。いかに予選で力を使わずに、良い順位を取るか。そこがカギです」

 だが決勝を目指すという意識も直前まで。大会が始まったら純粋に母国での五輪を楽しみたいそうだ。

「ブラジル代表として出るわけですから、自分を知らない人でも競技場ではすごく応援してくれるはず。その雰囲気を楽しみたいんです。その結果、予選落ちならばそれはそれで仕方がない。でも決勝のレースで満員の観客の中で自分の名前がコールされれば最高ですね。楽しそうに走っている姿を多くの人に見てほしいですし、それがお世話になった日本の皆さんへの恩返しだと思っています」

 初の五輪出場から8年。その間、世界の舞台を経験し、自分の課題に向き合いながら準備を進めてきた。母国で開催される大舞台を前にしても気負いはない。今、杉町はリオの舞台を全力で楽しみ、そして最高の走りをすることだけを考えている。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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