後半戦へ期待させるオコエ瑠偉の成長 攻守に課題も自ら考え、修正する18歳

中島大輔

記録に残らないミスを生んだ送球の課題

前半戦では俊足を活かした広い守備範囲を武器にファインプレーを連発していた 【写真は共同】

 25試合ぶりにスタメンを外れた7月11日の試合前、西武プリンスドームで興味深い光景が見られた。一塁ベンチ脇でキャッチボールを始めたオコエが、サイドスローで投げ始めたのだ。

 少ししてホームベース付近にいる仁村徹ヘッドコーチのところに行くと、再びサイドスローでキャッチボールを始める。次は肘から指先だけを使ってボールを投げ、さらにオーバースローで地面にボールをたたきつける動作を繰り返した。仁村コーチと何やら言葉をかわすと、セカンドの守備位置でノックを受け始める。

「何とかしようという気があるんだろうね。今はいろいろ悩んでいる。ちょっと慣れてきて、そういう時期なんだろうね。自分で乗り越えるしかない」

 そう説明した仁村コーチによると、セカンドに向かったのはオコエ自身の意思だ。守備で直面する壁を乗り越えようと、現在、必死でもがいている。

 正二塁手の藤田一也が軽快なステップで捕球し、サイドスローで一塁に送球すると、続けてオコエも同じ動きを行った。その姿を見て、ゴールデングラブ賞に2度輝いた名手が歩み寄る。
 
「こうすれば正確に強く投げられるとか、足の使い方について教えました。内野のショートスローなど、基本的なところですね。今までは独自でやってきたと思います。守備範囲が広いけど、動きはグチャグチャですからね」

 実はフレッシュオールスター前夜の西武戦で、オコエは守備で記録に残らないミスを犯している。7回裏に森友哉がセンター前タイムリーを放った場面だ。大きく弾んだ球をジャンプして捕った直後、中継に入ったショートへ悪送球をしている。6月24日の福岡ソフトバンク戦でも送球ミスを犯し、梨田昌孝監督から反省を求められている。

「追うのと捕るのは素晴らしい。でも、投げるのはまだまだ」

 そう話した米村理外野守備走塁コーチが、オコエの課題を指摘する。

「まだ18歳で、投げ方がわかっていない。(森のタイムリー時の)今日みたいにバランス悪く捕ったら、ああいうスローイングになるよね。バランス的に上と下が合っていない」

 打っては4打数0安打で、さらに守備でも懸念のスローイングでミスをした。それがフレッシュオールスター前日、自分に怒りをぶつけた理由だった。

首脳陣が感じる高い可能性

 しかし前半戦を振り返ると、悪いことばかりではない。プロ入り直後から考えれば、成長してきた手応えが確実にある。オコエがそう明かしたのは、守備だけの出場に終わった7月12日、チームバスに乗り込む道中だ。

「プロに入って『打撃が課題』と言われていました。でも、結果をちょっとは出せるようになってきたし、よくはなっています。ということは、前に進んでいる。だからこそ、こけるわけです。自信を持って今、やっています」

 一気にそう話したオコエが、4月14日から5月28日まで過ごした2軍での時間について話を移した。

「今までで言えば、2軍に行った後の打撃が明らかにブレークポイントでした。2軍監督の平石(洋介)さんに『お前はとことん1番で全試合出すからな』と言われて、その通りに出してもらって。そこでやっていく中で自信もついてきて、打席数ももらえたので。それが一番大きかったと思います」

 原石のとめどない可能性は、楽天の首脳陣全員がわかっている。仁村コーチが「どこまで行くのかと思う。球場全体の雰囲気を変えられる選手だからね」と話せば、米村コーチは「1軍のレベルを知ってほしい。捕ることに関してはすごいから」と期待を込めた。池山コーチは将来像を描きながら、指導者としての責任を口にしている。

「彼の野球人生の1ページを預けられたわけだからね。5年後の姿? もちろん球界を代表する選手になってもらいたい。その前にまず、楽天を背負って立ってもらわないと。1番センターを目指して」

 ここまで荒削りのプレーで思うような結果が出ない反面、誰もマネできないような次元のプレーも見せてきた。磨きをかけて攻守の基本が加われば、どこまで輝くだろうか。

 フレッシュオールスターに向かう前夜、自身へのフラストレーションを吐き出しながら西武プリンスドームを立ち去ろうとするオコエに、最後にひと声かけた。

 最低限の打撃にはまだ届いていないかもしれないが、レフト方向に引っ張るバッティングが多かった高校時代と違い、ライトにもセンターにもヒットが出ている−−。

「そうですね。まあ……出合い頭です」

 自重するように話しながらも、同時に屈託のない笑みを浮かべた。自分の現在地を把握しながら、きっと逆襲を誓っているのだろう。

 そんなオコエを見て、後半戦の大きな成長を期待したくなった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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