歓喜の優勝から半年、琴奨菊の心境 自らの相撲道を貫き32歳の綱取りへ

戸塚啓

気負いも飾りも感じさせない境地

10日から始まる7月場所を前に心境を語った琴奨菊 【大崎聡】

 ゆったりとした闘志を、琴奨菊は抱いている。

 2016年は最高のスタートを切った。1月場所で初優勝を飾ったのである。2002年1月場所の初土俵から、84場所目でつかんだ賜杯だった。
 3月場所は綱取り場所となった。角界きっての人気力士だけに、周囲は「日本人力士の横綱誕生か」とざわついた。

 結果は8勝7敗だった。続く5月場所は、10勝5敗に終わった。

 全方位的に寄せられる大きな期待は、同じ量の落胆として跳ね返ってくる。失望の色がにじむたくさんの視線に、串刺しにされるような時間を過ごした。それでも、琴奨菊の心が波打つことはない。静かでゆったりとした口調は、気負いも飾りも感じさせないのだ。

「なかなか結果が出ない場所は、これまでもたくさんありましたので。つらい時期の方が、長いと言っていいぐらいですから」

 自問自答を繰り返してたどり着いた境地である。

身についた気持ちの大きさ

 思い悩んだ日々もあった。明日の取組をより良いものとするために、身体のケアに時間を費やした。食事を素早く切り上げて、自分と向き合った。このままではいけない、このままでは終われないといった焦燥感に、いつも駆られていた。

 自分で自分を袋小路へ追い込んでいると、ふいに気づいた。

「どんどん殻に閉じこもってしまう自分がいたので、そういうところからまず打破しないといけないということで、視野を広げることを始めました。視野が広ければ広いほど、交差するところがあるのですね。それと相撲道が交われば、勝ちにつながったり、優勝につながったりすると思うのです。わき目も振らずに正面を向いている人も強いけれど、そこから卒業して視野を広げて色々なところから吸収できたら、人間的にも大きくなれる。相撲に生かせると思います」

 角界の関係者に止まらず、たくさんの出会いを大切にした。人材交流の境界線を取り払い、相撲に生かせるヒントを貪欲に探し求めた。ひと筋の光が、心のなかに射し込んできた。
 
「いろいろなジャンルの方とお会いすることで、自分を知ることができるようになっていきました。稽古も本場所も一生懸命にやるのは大前提ですが、結果を受け止められる気持ちの大きさというものが少しずつ身についてきて、つらい時期を乗り越えられるようになってきたかな、と思います。つらい時期があって、いい時期があって、大関に昇進して、でもまたつらい時期があって。それらすべてが、私の肥しになっています」

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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