3000m以上のGI2勝(菊花賞、天皇賞・春)で、長距離路線で確固たる地位を築いたキタサンブラック。1年前を振り返ると、日本ダービーを控え清水久詞調教師はこんな話をしていた。

「3連勝で迎えた皐月賞は理想の競馬をした中でしょうがないですが、完敗でした。上位2頭(ドゥラメンテ、リアルスティール)は強いですが、『かなわない』とは思いたくないです。母父サクラバクシンオーということで、長い距離がどうか？　ということを聞かれますが、ストライドが大きくゆったり走る馬なので、むしろ向いていると思っています」

　その後の日本ダービーでは、3着だった皐月賞のリベンジならず、自身が作り出したハイペースに泣かされ14着だった。

　昨春の二冠はともにドゥラメンテの後塵を拝したが、ライバルが骨折休養やドバイ遠征をしている間、キタサンブラックはGIホースとなり、ファン投票でも1位に支持された。この1年での変化を清水師はこう話す。

「風格が出てきましたし、毎日見ていると分からないくらい徐々にですが、確実に背が伸び、幅が出て体つきが変わってきました。まだ成長途上で、背中から後ろがもっとパーンとしてくればもっと走ってくれると思います。レースの度にこの馬のすごさにはビックリさせられます」

　その成長ぶりもあってだろうか。この中間も精力的にハードな調教をこなしており、調教に跨る黒岩悠騎手(レースは武豊騎手)も充実ぶりを語る。

「負荷をかけていますが、体が追いついたのか、それだけの負荷に耐えられる余裕があります。高いバランス感覚で走りますね」

　ドゥラメンテとの再戦を望んでいた清水師は、昨春に比べパワーアップしたレースぶりをこう語る。

「菊花賞は外からハナを主張する馬がいて控える競馬になりましたが、ああいう競馬もできてレースの幅が広がりました。天皇賞・春は一度『あぁ、負けた……』と思いましたが、相手に突き抜けさせることなくついていったので『差し返せっ！』と熱がこもりましたね。賢い馬で、相手がいればさらにしっかり走ります」

　同馬の強さと、北島三郎オーナー(名義は(有)大野商事)の人気が相まってファンが非常に多い馬だが、不思議とこれまでのレースで1番人気に支持されたことはない。しかし、宝塚記念は堂々のファン投票1位に輝いた。

「ありがたいことですよね。それに応えられるいい競馬をしたいです。大阪杯(2着)も小回りの中山コースもこなしてきました。宝塚記念へ向けて距離もコースも不安はありません」

　清水師はワクワクした表情で前を見つめた。