自らチャンスを引き寄せたイチロー、次戦はスタメン濃厚?

丹羽政善

監督は選手起用にジレンマも

スタメンを外れベンチから状況を見守るイチロー 【田口有史】

 さて、こうなって、ドン・マティングリー監督はジレンマを感じているのではないか。

 目下、2014年に北米プロスポーツ史上最高となる13年総額3億2500万ドル(約384億円)の契約を結んだジャンカルロ・スタントンが絶不調である。4月は打率2割5分3厘、8本塁打とまずますのスタートを切ったが、5月は右脇腹を痛めて、打率1割7分3厘と低迷。6月に入って復帰したが、6月の月間打率は1割3厘。本塁打はゼロだ。

 マティングリー監督としては、“試合に勝つ”ことだけを考えれば、リードオフのディー・ゴードンがいないこともあって、イチローを1番で起用したい。しかし、高額契約のスタントンを使わないわけにはいかない。むしろ我慢して使い続け、状態が上がるのを待つ必要さえある。しかしその間、そこで打線が切れる。この辺がもどかしい。

 加えてイチローを起用し続けることができないのは、マティングリー監督が、イチローをスタメンで起用するのは、多くて週3回までと縛りをつくっているためでもある。

「去年、イチローは153試合に出た」とマティングリー監督。「それは多すぎた。最後は疲れているように見えた」

 監督としてはその二の舞にならないよう、シーズン当初からイチローを慎重に起用して来た。週3回というのは、そういう発想による。

 だが、これだけイチローとスタントンの調子が対照的だとなかなか起用が難しい。

自身の手で出場機会を引き寄せたイチロー

 一方でマティングリー監督はほっとしているよう。
 
「開幕したとき、私はイチローに十分な打席数が与えられるかどうか、(3000安打に必要な)65安打に届くか、分からなかった。今のように近づくことができるかも心配したが、もうその必要はない」

 イチローに日米通算ながらピート・ローズを超えさせてやりたい。メジャー通算3000安打を打たせてやりたい。ただ、昨年のような状況では、どれだけ出場機会を与えられるか分からない。しかし、こうなった今、そういう気を使う必要がない。イチロー自身かつて、「監督に気を使わせるようではだめだ」といったニュアンスの発言をしたことがあるが、イチローはそうさせることなく、自分自身の手で出場機会を引き寄せた。

 果たして15日、達成するのかどうか。
 
 ローズの記録に並んだ瞬間、『ESPN.COM』がローズとの比較記事を掲載する予定だそう。先日、ローズのコメントを載せた『USA TODAY』紙のボブ・ナイチンゲール記者も14日まで現場にいたので、大きな記事が出るのではないだろうか。『MLB.COM』のナショナルコラムニスト、バリー・ブルーム記者も来ており、イチローが並べば、やはりコラムを書くようだ。ちなみにブルーム記者は、1985年9月11日、ローズがタイ・カッブの通算最多安打記録を更新した際、シンシナティのリバー・フロントスタジアムで取材していたというから、やはり比較原稿が出るのかもしれない。

 今回も日米通算ということで、米メディアがどこまで報じるか分からないところがあったが、ローズ超えとなれば、さすがに注目度が高いよう。
 
 15日の試合開始は午後12時40分。日本では16日の午前4時40分。イチローは午前5時前にローズに並んでいるかもしれない。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント