サイン会が大きな収入源のP・ローズ イチローと異なる価値観、野球観

丹羽政善

走攻守トータルではイチローが圧倒

レッズ監督時代は自チームの勝敗にも賭けを行っていた 【Getty Images】

「そもそもプレースタイルがまるで違う」とジェニングスは話す。
 
「例えばローズは、ヘッドスライディングが一つの代名詞だった。一方でイチローがそれをするのを見たことがあるかい? なぜしないかと言えば、故障のリスクがあることを分かっているからだ」
 
 昨年7月のことである。マーリンズのディー・ゴードンは、一塁へのヘッドスライディングで左手の親指を脱臼し、11試合も欠場した。イチローやジェニングスにしてみれば、避けられるケガなのだ。もっともローズは、40歳を超えるまで、毎年のように全試合出場を果たしており、その点での体調管理、故障を避けるプレイを心得ていたといえる。

 話を戻せば、「イチローと違って、ローズは決して守備がうまい選手ではなかった」とジェニングスは言う。「肩も強くなかった。だから、二塁を守っていたという面がある」。さらには、「足も決して速くなかった」そう。実際、ローズは1979年の20盗塁が最多。通算で198盗塁を決めているが、失敗も149回と多い。

 となると、ローズの場合、決して走攻守のバランスが良い選手とはいえず、大リーグ500盗塁をすでにマークし、10年連続でゴールドグラブ賞を取っているイチローとは、やはり似て非なるタイプか。

ファンを魅了してきたプレーがあるからこそ

 さらには、野球との向き合い方、プライベートもまるで違う。

 ローズは野球賭博をしたとして、89年8月に永久追放処分となった。当時は知らぬ、存ぜぬで通し、公に認めたのは2004年のことだ。監督をしていたレッズの試合も対象で、勝つ方に毎晩賭けていたと本人は証言したが、負ける方に賭けていたとも見られている。また、選手時代には野球賭博に関わっていない、と主張してきたが、昨年6月、選手時代にも関わっていた証拠となるようなメモが見つかり、このとき、大リーグ界への復権は事実上閉ざされた。

 それだけにとどまらず、1990年には脱税と虚偽申告のかどで有罪判決を受け、5カ月間服役している。軽犯罪者専用の施設で、椅子に座ってのんびりテレビを見ている写真が雑誌に載ったこともある。ヒットを打つ能力は飛び抜けていても、どうやら人となりはたたけばいくらでもほこりが出るようだ。

 しかし、である。そんなローズの元を訪れる人が後を絶たない。サイン会だけで年間100万ドルを稼ぎだすのである。ローズと食事する権利を5000ドル(約53万円)で買う人がいるのである。

 それだけ魅力を持った選手だったということなのだろう。あの豪快なヘッドスライディングは、それだけファンを魅了したのだろう。

 だとしたら、イチローとの極めて似通った共通点が、そこにあるといえる。

(文中敬称略)

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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