期待される若きフランス代表に故障者続出 ユーロ開催国の盛り上がりとテロの影響
フランスが勝ち進めば、ユーロは盛り上がる
ジダンのいたころの熱狂的さはないものの、現フランス代表は国民から人気を集めている 【Getty Images】
「南米などのある種の国と違い、フランスでは、実際に大会が始まる前にお祭り騒ぎをしたりはしないんだ。でも試合が始まり、フランス代表がいいプレーをすれば、ちゃんと盛り上がっていくんだよ」
1998年ワールドカップ(W杯)前に、開催国フランスの盛り上がり具合について取材したとき、仏『レキップ』紙の記者がこう言ったことを覚えている。そして実際、その通りのことが起きた。恐らく今回もそうだろう。
ディディエ・デシャン率いる“レ・ブルー”(フランス代表の愛称)は、健康的な人気がある。それは、14年のW杯リオデジャネイロ大会でベスト8入りした、連帯感のあるイキのいいプレーから生まれた人気でもあり、その後の親善試合を通して見せた、攻撃的プレーと勝利で培われたものでもある。
98年W杯時のジネディーヌ・ジダンのいた代表に対するような、熱狂的な人気ではないし、国民は優勝を期待しているわけではない。しかし、アントワーヌ・グリーズマン、ポール・ポグバ、ラファエル・バランら、肝の座った若手たちを背骨とした若いフランス代表は、そこそこやるのではないか、と心密かに思わせる何かを持っている。
後述する、大会直前に起きた主力の故障で、ピッチ上の不安が強まりつつあるとはいえ、今のフランス代表には、かつて代表を取り巻いていた険悪な雰囲気や、内部分裂など、プレー外の問題はない。そしてそれは、わがままを許さず、嫌われることを恐れない強い性格を持ちながら、同時に父のような温かさをもってチームを育ててきた、デシャン監督の手腕によるところが大きいだろう。デシャンは基本的に誰にでもチャンスを与えるが、チームの空気を汚すと判断すれば、それが誰であれ招集しない。口で多くを語ることなく、行動で――ピッチ上で協力し合いながら全力を尽くす、好感度の高いプレーを展開させることで、密やかかつ速やかに代表の人気を回復させた。
心配なテロの影響、会場は安全なのか?
ユーロではエッフェル塔前の広大なシャン・ド・マルス公園などにファンゾーンが設けられた 【Getty Images】
仏内務大臣のベルナール・カズヌーブ氏は5月25日、ユーロの際には計7万7000人の警官と憲兵に、民間警備員と軍隊を加え、9万人を動員して警備に当たる、と発表した。そしてその直後に、在仏日本大使館はユーロ時の行動に注意を促すメールを、在仏日本人宛に一斉に送信。大会中はサッカー競技場、ファンゾーン、多くの人々が集まって観戦するカフェ、サッカー観戦に向かう行列や渋滞には、不用意に近づかないよう忠告していた。
しかし、この日本ら他国の警戒度と、フランス国民のそれとは、かなりの温度差がある。フランス国民は危険があり得ることを意識してはいるが、今やごく普通に生活しており、あまり神経過敏になっている様子はない。どこで何が仕掛けられるか分からない中、注意したからとテロを避けられるわけではない、と知っているからでもあるのだろう。
実際、5月30日に発表された市場調査の結果では、64%のフランス人が、保安を理由にしたファンゾーンの廃止に反対している。ご存知の通り、ファンゾーンとは、試合会場のある町でスタジアムに赴けないサッカーファンたちが巨大スクリーンの前に集い、共に試合を観戦したり、コンサートを楽しんだりする場所だ。パリでは、エッフェル塔前の広大なシャン・ド・マルス公園、そしてサンドゥニにも設けられる。
元フランス警察の責任者フレデリク・ペシェナーが、10万人の観衆を受け入れられるエッフェル塔前のファンゾーンは「テロリストに大量殺人の好機を与える」と言ったことは有名である。確かに、試合日には多くの人でイモ洗い状態になるファンゾーンの真っただ中で自爆でもされたら、多くの死傷者が出ることは避けられない。
とはいえ、今回のユーロではファンゾーンは重装備の警官に加え、400人の民間警備にガードされる予定で、ゾーンの中に入るには、持ち物検査、身体検査、金属探知機などを通りぬけなければならない。セキュリティカメラ、警察犬も使われ、大きめの荷物を持った者は、ゾーンに入ることを許されないので、街角のカフェなどで観戦するよりずっと安全ではないか、という意見もある。政府は各地方団体に、ファンゾーンのような警備を受けられない、市町村レベルでのパブリックビューイングは控えるよう呼び掛けている。