MLBに君臨する異次元の左腕カーショー すでに100奪三振、与四球は5個

山脇明子

監督も「カーショーが25人いれば」

年々、制球力を向上させ圧巻のピッチングを見せるカーショー 【Getty Images】

 このレッズ戦後、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、「カーショーのような選手が25人いればいいのに」と笑顔で言った。

 実はドジャースは前日、延長17回、5時間47分に及ぶ試合で8人の救援投手を投入していた。その前日も11回までの延長戦で先発以外に5投手を使い、その前の日には、先発が6回途中で降板したあと4投手を使っていた。そのため23日はカーショーの好投でブルペンが休めることを祈らずにいられない状態だった。そしてカーショーは、完投どころか「封」のオマケまでつけて、きっちりと応えたのだ。

 試合後、自らがどれほどドジャースを背負っていると思うかと聞かれたカーショーは「自分は登板の時に勝つことだけを考えている。それ以外の日は応援しかできない」とさらりと答えた。しかし「(救援投手に)休みを与えられて良かった」と満足感あふれる表情を見せた。

 これまでさまざまな記録を残してきたカーショーだが、個人的な記録には大した反応を見せない。昨季300奪三振を達成した時は「世界で最も重要なことではないけどね。でもうれしい」程度で、今季6試合連続10奪三振以上を決めた時も「今日は並のでき。連続安打がなければ良かった」と逆に反省を口にした。

200イニング達成に目を輝かす

 そんなカーショーが、目を輝かせた時があった。

 昨季9月8日のエンゼルス戦でシーズンの投球回数200イニングを上回った時だ。

「200イニング以上投げることは、目標にしていることだった。それだけブルペンを休ませることができたということだからね」

 話を聞いている記者にもその喜びが強く伝わるほどの弾んだ声だった。

 5月29日の登板を終えた時点で、すでに投球イニングは86.2に達している。このまま順調にいけば、肩甲骨付近の筋肉の違和感で4月に戦列を離れた14年を除いて7年で6度目の200イニングも達成できる。実際14年も198.1イニングを投げており、前述のようにサイ・ヤング賞とMVPを同時受賞。最多勝利(21勝3敗)と4年連続の最優秀防御率(1.77)を奪っている。
 
 昔はいつも笑顔を見せていた。だが今はあまり見せることはない。それどころか登板日前日ともなれば気合いが入り過ぎ、投球練習でさえも自分の思い通りに行かないと腹立たしさで吠えている時がある。それほど1回1回の先発登板にかけている。

スタンドからは「MVP!」の合唱

 エリスによるとカーショーはシーズンを迎えるたびに主に制球力の向上に努めているという。「制球力。それこそがルーキー時から今までで彼が最も身につけたことであり、彼の投球の幅を広げている」とエリスは言う。

 カーショーの制球力と投球技術、そして実績は、打者に「追い込まれたくない」という心理を与え、早打ちにつながる。カーショーは「ここ数年打者の自分へのアプローチは同じ。早いうちに速球を打ってくるから僕は早い段階で打ち込まれる時もあるし、逆にさっさとアウトを取ることもある」と話す。実際多くの場合、試合は後者の流れとなり、カーショーの長い投球回数につながる。

 完封した23日のレッズ戦で、カーショーが9回のマウンドに立つと、ドジャー・スタジアムのスタンドから「MVP!」の合唱が響き渡った。

 この日の試合時間は2時間11分。勝利の喜びをかみ締めながら、選手もファンもいつもより早く帰宅の途についた。

「彼は一世代に一人の投手。いや、一生に一人いるかどうかの逸材かも知れない」

 ロバーツ監督は、ファンの興奮が冷めやらぬ球場で、そう誇らしげに話した。

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著者プロフィール

ロサンゼルス在住。同志社女子大学在学中、同志社大学野球部マネージャー、関西学生野球連盟委員を務める。卒業後フリーアナウンサーとしてABCラジオの「甲子園ハイライト」キャスター、テレビ大阪でサッカー天皇杯のレポーター、奈良ケーブルテレビでバスケットの中体連と高体連の実況などを勤め、1995年に渡米。現在は通信社の通信員としてMLB、NBAを中心に取材をしている。ロサンゼルスで日本語講師、マナー講師、アナウンサー養成講師も務めている。

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