打倒白鵬へ、稀勢の里にかかる重圧 名古屋は積極相撲で横綱と戦えるか!?

荒井太郎

最大の関門は白鵬

14日目、鶴竜に敗れた稀勢の里(左)。これで白鵬(右)の37度目の優勝が決まった 【写真は共同】

 2場所連続13勝。いずれの場所も稀勢の里の黒星は横綱に喫したのみで、取りこぼしはない。大関在位27場所で2桁勝利は実に20度。13勝以上は5回を数える。これほど抜群の安定感を誇りながら、綱はもとより賜盃にも手が届かない。悲願を阻んでいる最大の障壁は言うまでもなく横綱白鵬の存在だ。

 綱取りがかかった5月場所前の表情は明るかった。場所前の二所ノ関一門の連合稽古では大関琴奨菊と三番稽古を行い、武器である左おっつけが冴えわたり内容で圧倒。稽古の視察に来ていた元横綱・北の富士勝昭さんも「いつ優勝してもおかしくないんじゃないか。あとは気持ちの面」と太鼓判を押すほどだった。

 白鵬との直接対決までに2差をつけられてしまえば、チャンスはまずない。果たして、両者は初日から順調に白星を重ねていき、他の上位陣に早々と土がつく中、6日目を終わって全勝は2人だけ。優勝争いは早くもマッチレースの様相を呈した。稀勢の里の相撲ぶりは前場所同様、攻め急ぐことなく落ち着いており、琴奨菊に寄られて俵に詰まった場面以外は、ほとんど危なげなかった。

「一日一日、集中してやるだけ」。

 言葉数は決して多くはない。しかも連日、判で押したような同じコメントが返ってくるが、表情は穏やかそのもの。以前は眉間にしわを寄せ、周囲を寄せつけない雰囲気を漂わせていたが、今はピリピリしたムードはない。仕切りの時に何度もまばたきをしなくなったのも、過度に緊張しなくなった証拠だろう。控えでは一瞬、微笑んでいるかのように頬を上げた表情にもなる。精神面の充実も無傷の快進撃を大きく支えていたことは間違いない。

“負けない相撲”は横綱に通用しない

 白鵬との直接対決は互いに無敗のまま、13日目に実現。58本もの懸賞がかかった大一番を前に館内は「稀勢の里コール」ほぼ一色。白鵬にとっては完全アウェー状態の中、稀勢の里は十分の左四つ、右上手も引き、相手に上手を取らせない絶好の体勢となった。しかし、攻め切れない。白鵬が再三の下手投げで稀勢の里の重心を徐々に浮かせると最後はとどめの下手投げで綱取り大関を粉砕した。

「今日の一番は『勝っていいんだよ』という感じだったけど、勝てなかったのは何かが足りないんでしょうね」と全勝対決を制した白鵬は余裕たっぷりに言い放った。

「自分から攻めていない。動いていたのは全部、横綱のほう。重い体が軽い。相手に圧力をかけて足から攻めないと」と優勝31回の九重親方(元横綱千代の富士)は、得意の形になりながら後手後手に回った稀勢の里の消極的な取り口を指摘する。前日までの落ち着いた取り口はいわば“負けない相撲”だ。しかし、横綱に対してそれは通用しない。自分から攻める積極的な相撲を取ってこそ、初めて横綱と互角に戦えるのだ。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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