残留か移籍か、決断を迫られる吉田麻也 プレミア在籍4季目は厳しいシーズンに

田嶋コウスケ

「選手として一番良い時をベンチで過ごしたくない」

今年で28歳になる吉田。選手として脂の乗ったこの時期をベンチで過ごすリスクは高い 【Getty Images】

 現在の心境について、吉田は次のように吐露する。

「ベンチに座っていても成長するわけじゃない。それはバルセロナだろうがレアル・マドリーだろうが同じ。どこであろうと、ベンチにいて成長するのはなかなか難しい。やっぱり試合に出なければいけない。試合に出ることへの渇望は、もちろんあります。今年で28歳になるし、選手として一番良い時をベンチで過ごしたくないという気持ちはあります」

 名古屋グランパスからオランダのVVVフェンローに移籍してから、はや6年。「プレミアリーグでプレーするのが夢だった」とサウサンプトンに籍を移して4季目になる吉田は、今年8月で28歳の誕生日を迎える。彼の言う通り、選手として一番脂が乗ったこの時期をベンチで過ごすリスクは高い。

 だが同時に、慣れ親しんだサウサンプトンに愛着も感じている。苦楽を共にした選手やスタッフに囲まれ、「ボートショーが開催されるとサウサンプトンはめっちゃ混む」と、英国南部に位置するこの街のことも知り尽くした。

「サウサンプトンはクラブとしてもすごく愛着があるし、好きです。正直、クラブに関しては全く不安はないです。だから、試合に出られれば、何もかもがうまくいくんですよね」。吉田のプライオリティーは、あくまでもこのサウサンプトンでの「レギュラー奪取」にある。

残るサウサンプトンとの契約はあと2年

残留か移籍か、吉田はどのような決断を下すのだろうか? 【写真:アフロ】

 しかし、現実はかなり厳しい。今季の状況を踏まえ、頭の片隅には移籍の二文字がちらつき始めた。来季のサウサンプトンはUEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権が与えられているが、それでも吉田の出番がどこまで増えるかは未知数で、今季と同じように出番が確約されていることもない。プロのサッカー選手は試合に出てこそ成長が見込め、さらに自身の価値が高まるということも、本人は十分理解している。だから、こうも言う。「(去就については)まだ分からないですね。どの可能性も残していると思います」。吉田は続ける。

「メディアに話す前に、監督と話しをしなくてはいけないし、エージェントとも話さなくちゃいけない。クラブとエージェントも話す必要がある。

 僕が『(チームを)出たい』と言っても、需要がないとダメだし。どこか(のクラブ)が『欲しい』と言っても、サウサンプトンが『出す』と言わなければ出られないし。どういう風に折り合いがつくのか分からないですけれど、どうなっても、自分が置かれた立場のなかで、やるべきことをやるつもりです。(チームに)残ろうが出ようが、今まで通り、プロとしてどうしなくてはいけないのかは理解しているつもりなので、自分自身は変わらずに、吉田麻也としてやっていくつもりです」

 折しも、日本の一部報道で名古屋への復帰の可能性が伝えられ、本人も「根も葉もないということはない」と移籍の話があることを認めた。しかし、「僕がプレミアリーグで成功することが、ほかの日本人選手の手助けになる。そして、アジア人DFの成功にもつながる」と決意を語っていた吉田の考えからすれば、28歳になる今のタイミングで日本に復帰することは得策とは思えない。吉田自身も「状況的に考えて、それが今の自分がやらなくてはいけないことのファーストチョイスではない」と言う。

「日本人にとって難しいのは、ストライカーとCB、GKとしてプレーすること」と語る吉田の挑戦は、すなわち日本人CBの挑戦でもある。欧州の選手に比べて体格面で劣る日本人CBが、いかに欧州の舞台でやりあうか。彼が欧州で培う経験と知識は、日本代表の強化にも直結する。

 欧州で切磋琢磨(せっさたくま)しながら自身の成長を促すのなら、出場機会が与えられるプレミアリーグのクラブ、もしくは他の欧州クラブに移籍するのが有効な手段であるはずだ。その一方で、サウサンプトンとの契約はあと2年残されており、吉田の意志だけで移籍できるわけでもない。

 残留か、あるいは移籍か──。いずれにせよ、吉田はこの夏、今後のキャリアを占う上で重要な決断を下すことになる。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント