財産となる苦さを味わったU−19代表 課題を見据え10年ぶりの世界を目指す

川端暁彦

韓国との一戦ではギアを上げられず

 そして最終日の相手は韓国である。地元開催のU−20W杯を控えるチームだけに韓国国内でも元々注目度は高いチームであるのだが、日本相手の試合となるとプラスアルファの意味が出てくる。「水原に来てからずっと『韓日戦だ、韓日戦だ』とばかり言われてきた」と内山監督が苦笑を浮かべたように、日韓対決には常に特別な意味がある。そういう試合だけに、指揮官は試合の意味付けを「勝ちにこだわって、勝ち切ること」と位置づけていた。

 ただ、われわれ日本人はどうも「勝負にこだわる」と言われると、何か小さくなってしまうようなメンタリティーがあるのかもしれない。試合前にはアイドル歌手のコンサートも行われ、少し異質な雰囲気もあったこの日韓戦、日本は良く言えば慎重に試合に入ってチームで課題としていた序盤の失点を回避することに成功した。ただ、慎重な流れからギアを上げていくことがどうもできない。

「自分が下りて前を向いたときに前にいる人数は少ないと思った」とトップ下のMF堂安律(ガンバ大阪)が振り返ったように、全体に前の選手を追い越す動きが少なく、リスクを負った攻めにならない。決定的チャンスは皆無で、そもそもペナルティーエリア内でのシュート自体がDFに当たった1本のみという内容だった。

 後半に1点を奪われてからもボールは専ら横に動くばかりで、縦にスピードアップする攻撃は数えるほどしか出ず。「海外のチームはどこも守る時間と攻める時間がハッキリしていて、メリハリがある。日本はそこをコントロールできていない」とMF市丸瑞希(G大阪)が課題を痛感し、「ちょっと型にハマり過ぎていた」と堂安が嘆いたように試合のペースは最後まで一本調子。選手交代も機能しないままに、0−1で終了のホイッスルを聞くこととなった。

大会を通じて痛感した課題

タフな相手との戦いを通じ、チームで危機感を共有できたことは明るい材料だ 【佐藤博之】

「勝たない限り『良い経験』とは言えない」と初戦後に語っていたDF中山雄太(柏レイソル)の言葉を尊重して、「良い経験をした大会だった」とは言うまい。0勝1分け2敗で最下位という結果を含めて、「苦い経験」だったと総括するべきだろう。ただ、個々の選手にとっても、チームにとっても、恐らく世代全体にとっても、一つの財産となる「苦さ」だったことは間違いない。

 中山が「(海外勢と)Jリーグとではストロングの部分が違うので、味わうこともまるで違う」と感じたように、MF遠藤渓太(横浜F・マリノス)が「Jリーグとこちらを比べると球際の強さが本当に違う。賢さの部分も海外のほうが『うまいな』と感じる」と振り返ったように、井の中の蛙では味わえない、海の広さを体感することができたのは間違いなく収穫だろう。「前と後ろで考えていることがバラバラだと勝てない」(市丸)と、タフな相手との勝負を通じてチームとしてやるべきことが見えたことにも大きな意味がある。

 来年のU−20W杯へ向けて、10月にはバーレーンでのAFC U−19選手権が待っている。10年ぶりの世界切符を目指す上で、現状のチーム状態が足りていないのは明らかで、危機感を共有できたことは明るい材料だった。この大会では失意が先行したのだが、リオ五輪代表がそうだったように、危機感の共有はしばしばチームを強くしてくれるもの。タフな相手との3連戦を通じて課題を痛感したことは、間違いなく今後につながるものだった。

 日本サッカー協会が目標に掲げている4年後の東京五輪での金メダルとなると、このフランスやブラジルのレベルに拮抗(きっこう)できることは最低限のラインとなるわけで、足りていないのは確実だ。既存の枠組みや慣例にとらわれない大胆な強化策の必要性をも痛感させられた、この大会は東京五輪世代にとって、ひとつのターニングポイントとなるかもしれない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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