原博実副理事長のJリーグ勢分析 今年のACLは「チャンスあり」

川端暁彦

今年は頂点に返り咲くチャンス

江蘇蘇寧をグループリーグで下し、上海上港にホームで先勝したFC東京。「チャンスの年」を制することができるか…… 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 とはいえ、課題があるからといってJリーグ勢の前途について原副理事長は絶望していない。

「今季のグループステージで確かにJリーグ勢は苦戦していましたが、終わってみれば日中韓、それにオーストラリアが2チームずつラウンド16に進むという痛み分けの形でした。まるで悪くないし、絶望するような差があるわけではないんです。正直、中国の敗退した2チーム(広州恒大、江蘇蘇寧)が戦力では一番だったと思うので、僕はチャンスのある年が来たなと思っています」

 中国や韓国との対戦成績が今ひとつの中でJリーグ勢が勝ち残れた要因として、原副理事長は「われわれは東南アジア勢に強かった」ことを挙げる。全体に小柄でテクニックでの勝負を好むスタイルが日本にとって相性が良いことに加えて、「暑熱対策などピッチ外の準備に関しては日本勢のノウハウが蓄積・共有されていて、その点に関しては中国勢や韓国勢よりも上だと言える」ことも大きかったようだ。

 ピッチ外で言えば、今季はスカウティング(偵察・分析)のための映像をJリーグから提供することに加えて、決勝トーナメントから相手チームを分析したスタッツデータの提供も始めている。原副理事長によれば「データをどう活用するかはあくまで監督の仕事だけれど、協力できることはしていこうということでJリーグから提供させてもらうことになった」。ただ「やはりアジアは広すぎる」という現実を考えて、こう続ける。

「これがヨーロッパのチャンピオンズリーグなら、飛行機で2、3時間を超える移動なんてほとんどありません。ところがアジアでは当たり前のようにある。加えて、オーストラリアに行けば赤道を越えて季節が反転しますし、大変なのは本当に大変。ここはちょっと現状のスケジュールでは、どうしようもない部分もある。日本サッカー全体として各大会をどうするかを考えていくべきですし、AFC(アジアサッカー連盟)に働きかけていく必要もあるでしょう」

環境面で勝る日本のポテンシャル

昨年度まで日本サッカー協会の専務理事も務め、日本のポテンシャルを熟知している原副理事長 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 極端に言えば、ACLの試合数が現状で適正なのかという議論もあるだろうし、国内大会のスケジュールを整理していく必要もあるかもしれない。もちろん、Jリーグ勢が純粋に競技力の部分で強くなっていく必要もある。この点についての原副理事長の考えはこうだ。

「現在、外国人選手の質は正直に言って中国のほうが高い。ただ、もう少し勝負できるくらいのお金を出せるようになれば変わってくるとも思います。環境面で言えば、Jリーグは中国に負けていませんから、少しお金が低くてもJを選んでくれる人は多いと思います。かつて名古屋に(アーセン・)ベンゲルさん(現アーセナル監督)がいたように、大物の監督を引っ張ってこられるようになれば、自然と選手も獲れるようになります。そのためにもっと(経営的な体力を)整えていく必要があります」

 言うまでもなく、お金と戦力が比例するのはプロスポーツ界における非情の掟ではある。今季のACLで勝ち残っているFC東京と浦和に「チャンスあり」と見る原副理事長の見解には同意するものの、安定してJリーグ勢が勝っていくためには財政的な「力」をどうやって増強していくのかという議論から逃げることはできない。

 育成組織の改革やピッチ外でのサポートに続く「第三の矢」がJリーグにあるのかどうか。究極的にはJリーグがお金の集まる豊かなリーグに成長していかないことには、国際舞台でのJクラブ躍進も見えてこない。各クラブの努力はもちろんのこと、原副理事長を迎えたJリーグが成長のために今後打ち出していくであろう新たな戦略とリーダーシップに期待したい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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