熊本地震が熊本の高校球児に及ぼした影響 延期の春季九州大会、調整必要な夏の大会

松倉雄太

夜の余震は「みんな怖い」

「感謝に甘えず、ハツラツ挑戦して次に進んでいかなくてはいけない」と九州大会に臨んだ九州学院。初戦で佐賀商(佐賀)と対戦するも5対10で敗れた 【写真は共同】

 今回の熊本地震とその余震は夜に発生することが多い。「九州大会で長崎に来て、熊本に比べると余震を感じることが少ない。夜ゆっくり眠ることができる。それがうれしい」と秀岳館高と九州学院高の選手の多くが話す。さらに、地震と同時に携帯電話やテレビなどの緊急地震速報の大きな音がなる、「あの音が怖い」と話す選手もいた。今も被災地で生活する方たち、特に子供たちの不安な心境が両校の選手たちの言葉ににじみ出ていた。

 熊本を中心に今も震度4〜5クラスの余震が多発している。鍛治舎監督は、「直下型の地震は地鳴りがする。車が近くを通っただけでも地鳴りで地震かと感じる時がある。ずぶといと思っている自分でもそう感じるのだから、子供たちはどれほど怖いか…」と話す。坂井監督も、「生徒は余震には慣れましたと言いますが、あれは強がっている部分もあると思います。みんな怖いんです」と感想を語った。

1年生の登録ができていない学校も…

 地震は学校生活にも大きな影響をもたらしている。最初の地震が発生した4月14日以降、多くの学校が休校になり、部活動もストップした。特に大きく影響しているのが入学からわずか1週間足らずで学校へ行けなくなった新1年生。九州学院高で1年生ながら1番打者として出場した緒方敬亮は、「まだ学校に慣れてない。クラスメートの顔もまだ覚えきれてないんです」と話す。これは授業がようやく再開したばかりの各校にも共通している。熊本県高校野球連盟の工木雄太郎理事長も、「1年生の部員登録すらできていない学校もあります」と学校に慣れるべき時期の4月に休校にならざる得なくなってしまったことの影響を語った。

 学校側でも部活動以前に生徒の心のケアに時間を注いでいる。工木理事長が勤務する済々黌高では、午前中の授業をカットして全校集会や個人面談をしている。「私たちも不安な日々を過ごしています。何とか余震がおさまってほしい」と現状を語った。

夏は球場などギリギリまで調整

 7月10日予定の夏の熊本大会開会式まで2カ月を切った。メイン会場になっている藤崎台球場は、バックスクリーンの壁の一部が崩壊するなどの被害が出たが、グラウンドに関しては開幕までに復旧が間に合う見込みがあるのだという。ただ、「球場の隣に(大きな被害を受けた)熊本城があります。駐車場や寸断された道路の状況があり、私たちの判断だけで『使えるからお願いします』ではなく、熊本県や関係団体と話をしていきたい。それにお客さまや選手たちの安全のことも考えなくてはいけない」と工木理事長はこれから検討していく課題がたくさんあることを話した。

 熊本大会では県営八代球場と山鹿市民球場も使用しており、藤崎台球場の状況次第では、開会式を県営八代球場で行う可能性も出てくる。ただし藤崎台球場は熊本の球児にとっては憧れの場所。昨夏の熊本大会を制した九州学院高の松野謙信主将(3年)は、「できれば、藤崎台で全校揃っての開会式で優勝旗を返還したい」と話した。

 さらに県営八代球場と山鹿市民球場は主に熊本大会前半で使用することを想定して球場を予約しており、その後はほかの団体が使用する予定となっている、「各団体で球場の調整会議をしています。どの団体も球場を使いたいので、高校野球だけのために空けてほしいとは中々できない」と運営側も頭を悩ませる。7月10日開幕、25日決勝予定の会期を再検討する可能性もあるそうで、「ギリギリまで調整していきたい」と工木理事長は語った。

「今野球できることに感謝を」

 17日の決勝で福岡大大濠高が西日本短大付高(ともに福岡)を下して25年ぶりの優勝で幕を閉じた九州大会でのある試合前。主将を集めての攻守決定のじゃんけんの際に、球審が両主将にこう話したので最後に紹介したい。

「私は熊本県で審判をしています。熊本では野球をしたくてもできない子供たちがいっぱいいます。どうか、今野球ができていることを当たり前だとは思わないでほしい。野球ができることに感謝をして、全力でプレーをしてください」

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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