ファンの意見も二分するベンゲルの功罪 プレミア優勝から遠ざかるアーセナル

山中忍

来季は積極的なFWとCBの補強を

ウェルベック(中央下)が膝に全治9カ月のけがを負ったこともあり、ストライカーの補強は必須だ 【Getty Images】

 アーセナル経営陣がベンゲルと別れたがらないのはもっともだが、指揮続行を望むのであれば、うわさのある新3年契約を手渡す前に、今夏の移籍市場で背中を押す必要がある。“アーセンFC”のボスは、健全経営の産物としてクラブの預金口座に予算化可能な300億円規模の資金が眠っていると知りながらも、その使い道には慎重だ。昨夏などは、懸案だった新GKとしてペトル・チェフを獲得しただけで実質的な補強を終えている。だが来シーズンは、それがベンゲル最終年になるのであれ、新たな延長契約の年になるのであれ、移籍市場から積極的な姿勢でリーグ優勝を狙ってもらいたい。

 補強対象としては、5月8日の第37節マンチェスター・シティ戦(2−2)でダニー・ウェルベックが膝に全治9カ月のけがを負ったこともあり、ストライカーの優先度が高い。そうでなくとも、リーグ戦でシーズン15点前後が精いっぱいのオリビエ・ジルーが、センターFWのファーストチョイスでは心もとない。ジルーには大一番で簡単なチャンスを逃す悪癖もあり、昨年11月のトッテナム戦(1−1)ではノーマークだったボックス内でヘディングを外し、今年1月のリバプール戦(3−3)では3メートルの距離から無人のゴールを前に決め損ねている。

 メディアでは新ボランチとしてレスターからエンゴロ・カンテ引き抜きのうわさがあるが、守備面では新センターバック(CB)獲得を推したい。ベンゲルはリーダー格のローラン・コシエルニーの相棒にガブリエウを好むようになったが、両者は共に機動力に依存するタイプで、そろってフィジカル不足。衰えつつあるペア・メルテザッカーに変わる強さと高さの持ち主が最終ライン中央に欲しい。頼れる壁が手前にあれば、マンC戦でもケビン・デ・ブルイネの1発を浴びたように、チェフがチェルシー時代には記憶のない頻度でエリア外からシュートを決められる状況も改善されるのではないだろうか――。

まだアーセナルには進化が期待できる

来季、ベンゲルはアーセナルの指揮を執っているだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 ファンの中には新監督の獲得を望んでいる者もいるわけだが、その難易度はFW探しやCB探しをしのぐ。クロップは既にリバプールに雇用され、ペップ・グアルディオラは来季からのマンC就任が決まっている。玉突きでマンCから出るマヌエル・ペジェグリーニーは、攻撃過多の傾向という弱点がベンゲルと同じだ。

 リバプールを追われたブレンダン・ロジャーズはキャリア再生が先決。ジョゼ・モウリーニョやディエゴ・シメオネは、物議を醸す言動と堅守ベースのスタイルがアーセナルには向かない。アヤックスのフランク・デ・ブールという説もあるが、であれば同じオランダ人監督でもプレミア実積のあるロナルド・クーマンの方が妥当に思える。現サウサンプトン指揮官は、攻撃の理想と守備の現実がバランス良くブレンドされたチームを作る。ただし、バトンタッチは来季終了後でも遅くはない。

 誰よりもベンゲル自身がそう思っているはずだ。問題のノリッジ戦、実際のスタンドの声は、退任を求めるファンに自粛と翻意を求め、「アーセン・ベンゲル、あなたしかいない!」と歌うサポーターの声が勝っていた。抗議は失敗だったのだ。支援を耳にしたベンゲルは試合後、「常に全力で仕事に当たってきたが、不足があったのなら(ファンに)詫びたい。今後、より一層の努力を続ける」と語っている。

 その指揮官が、過去に進退を問われて口にした言葉には、「もはや自分にはチームを進化させられないと感じたら身を引く」というものもある。その指揮官が「今後」への意欲を示しているのだから、まだアーセナルには進化が期待できるということだ。かつては『IN ARSENE WE TRUST(われら、アーセンを信ず)』の弾幕の下に心を一つにしていたアーセナル・ファンは、今一度ベンゲルを信じ、一致団結して来季のプレミア優勝争いに挑むべきだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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