発展途上も、輝きを放つラッシュフォード デビューから2カ月、順調に成長中

山中忍

レスター戦で15試合連続の先発出場

18歳ながら、2月のデビューから先発出場を続けるラッシュフォード 【写真:ロイター/アフロ】

 今年2月後半の1軍デビュー以来、マンチェスター・ユナイテッドでスタメン定着を果たしているマーカス・ラッシュフォード。弱冠18歳だが、ルイ・ファン・ハール監督は「年齢ではなくクオリティーの問題」なのだと言う。ラッシュフォードは、5月1日のレスター戦(1−1)でも公式戦15試合連続となる先発出場。ウェイン・ルーニーを中盤中央に、アントニー・マルシャルを左アウトサイドに従えて1トップを任された。

 その指揮官は「若手はパフォーマンスの安定性が問題」だとも言っている。だが、ラッシュフォードは例外。デビューを飾った現地時間2月25日のヨーロッパリーグ決勝トーナメント1回戦セカンドレグ、FCミッティラン戦(5−1)での2得点に始まり、2カ月間で計14試合出場7得点という安定したペースでゴールを重ねてきた。その上、プレミアリーグ初出場となった第27節のアーセナル戦(3−2)と、ダービー初体験を果たした第31節のマンチェスター・シティ戦(1−0)といった強豪対決でもマン・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍。物事に一喜一憂するタイプではないファン・ハールが、「スペシャル」とたたえるのもうなずける。

ルーニーよりも「生粋のストライカー」

 そこで巷では、やはり10代の頃からトップレベルで得点を重ねたマイケル・オーウェンとの共通点が指摘されている。細身でも身長180センチの体型は、小柄なFWだったオーウェンとは異なるが、フィジカルを必要とせずにネットを揺らすゴール前での嗅覚に相通じるものがあるのだ。例えば、アーセナルから奪った2得点は、いるべき時にいるべき所にいたからこそ決められたゴール。敵のクリアミスを予期していたかのような1点目のポジショニングといい、2点目をヘディングで決める前に軽く後方にステップを刻んでマークを外した動きといい、コーチングではなく本人の直感が可能にしたゴールと見受けられた。

 この点で、ラッシュフォードはマンチェスター・ユナイテッドの現役先輩FWであるルーニーよりも「生粋のストライカー」だと言える。ルーニーは、12年前に当時のアレックス・ファーガソン監督が獲得を決めた理由も、「トータルなフットボーラー」としてのずば抜けた才能にあった。一方、ラッシュフォードは「生来のフィニッシャー」を思わせる。ボックス内でグラウンダーのクロスにダイレクトで合わせて相手DFの股間を抜いた、第34節のアストンビラ戦(1−0)でのゴールもその一例だ。

アンリを彷彿とさせる得点パターンを持つ

ラッシュフォードは単独で得点機を造り出してゴールを決めることができる 【Getty Images】

 典型的な「点取り屋」はチャンス供給を必要とするが、ラッシュフォードは単独で得点機を造り出してゴールを決めてもみせる。これが現役当時のティエリ・アンリとも比較される理由だ。最たる例が、マンチェスター・ダービーで史上最年少の得点者となったゴールだ。左インサイドでパスを受けると、瞬時の加速と巧みな足さばきでマルティン・デミチェリスをかわし、しりもちをついた相手センターバック(CB)を置き去りにしてボックス内に切り込んだ。セーブを試みるジョー・ハートを前に、ゴール内へとパスを送るかのようにネットを揺らした一連の動きは、アーセナル時代のアンリを彷彿とさせた。

 スピードを上げても狂わないボールコントロールは、ドリブル突破を本職とするウインガーと比べても遜色はない。アーセナル移籍前のアンリがそうであったように、ラッシュフォードにも当初はウインガーとして育成された背景がある。そして「無から有を生む」とも言うべきこの能力が、昨年11月からブライトン(2部)に期限付き移籍しているジェームス・ウィルソンと、今年1月にプレストン(2部)への期限付き移籍から戻ったウィル・キーンというユースの両先輩よりも、ラッシュフォードを魅力的なFWにしている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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