岡崎慎司とレスターの“相思相愛な関係” 快挙を支えた精力的なプレーと人間性
バーディー「シンジとの相性は良い」
そして同時に、最前線でプレーするバーディーも恩恵を受けた。岡崎が中盤から前線まで広く駆け回ることで役割分担が明確になり、ゴールに集中できるようになった。今季は第36節時点で22ゴールを量産。イングランド代表FWはこう証言する。
「互いに補完性があるから、シンジとの相性は良い。シンジは、中盤まで降りて守備やパスワークに参加する。おかげで、俺は敵の背後へ抜ける動きに集中できる。チームの狙いは前線から圧力をかけ、できるだけ高い位置でボールを奪うこと。その意味でも、シンジのプレースタイルはレスターに合っている」
英紙『デーリー・テレグラフ』も「最前線にいるバーディーがDFラインの背後を突く。岡崎が遅れてゴール前に入ることで、アタックに厚みが生まれている。こうなると、相手としても守備の的を絞りにくい」と指摘する。2人の連係は攻撃面で相乗効果を生んだ。
シーズン後半戦になると、ラニエリは岡崎を含めてメンバーを固定して戦った。先発のイレブンは、ほぼ不動。”ティンカーマン”でさえ、イジる必要がなかったということだ。
仲間から愛される前向きな人間性
それは選手たちも一緒だ。取材エリアで岡崎から話を聞いていると、チームメートたちが笑顔でちょっかいを出してくる。主将のDFウェズ・モーガンが岡崎の胸を触って笑わせれば、控えMFのアンディ・キングもウインク。「みんなのシンジ」という雰囲気が、筆者にも伝わってくる。
同時に、愛すべきイジられキャラでもある。チームメートと興じるためにニンテンドーDSをなぜか6台も買わされ、「そうなんすよ……」と苦笑いを浮かべたことがあった。そんな岡崎だから、仲間の冗談もエスカレートする。
「いつも60分で交代させられるから、みんなに茶化されるんですよ(笑)」
16試合連続で先発を続けている間、岡崎が試合終了のホイッスルをピッチで聞いたことは1度もない。理由はシンプル。前線でひたすら走り回って活力を注入し、少しでも疲れが見えたところで途中交代になっているからだ。この件について、「シンジをいつも茶化しているようだけど……」と質問を受けたマーク・オルブライトンは、間髪入れずに切り返した。
「たしかに、そうだね。でも僕は、そのことでシンジをからかったことがないんだ」
ボソッと、さり気なく語った言葉だった。しかし、そこには彼の強い意志も感じられた。アストンビラを放出され、レスターにたどり着いた苦労人でもあるオルブライトンは言葉をつなぐ。
「シンジは、ハードワークを信条とするファンタスティックな選手。走り回って敵のDFに休む暇を与えない。チームにもすっかり溶け込んでいるし、僕らにとって素晴らしい補強だった」
オルブライトンの言葉から伝わってきたのは、岡崎への惜しみないリスペクトだ。日本代表FWの献身的な走りがチームにとって大きな価値があること。そして、ハードワークのゆえに途中交代を強いられていることを、きちんと理解しているのである。
岡崎がゼロから築き上げた信頼関係
当然、岡崎の努力もある。イングランドでは通常、外国人選手に通訳をつけることはまれで、練習やミーティングを独りでこなしている。多少文法が間違っていようが、積極的に英語でコミュニケーションをとろうとする岡崎の姿勢は、英人記者にも好印象を与えている。さらに、ポジションをかけて争うレオナルド・ウジョアがゴールを決めれば、歩み寄って一緒に祝福。試合後は出待ちのサポーターへのファンサービスを欠かさない。
こうした岡崎のひたむきな姿勢、誰からも慕われる人柄を、選手やスタッフも気がついている。シーズン開幕当初、岡崎は「チームで『誰だこいつ──』ってところから始まっている。ブンデスリーガで二桁ゴール奪ったことなんて知られていない」と漏らしたこともあった。あれから、約10カ月──。「回ってこない」と嘆いていたパスは、自然と彼の足元に入るようになった。
新天地で岡崎がゼロから信頼関係を築き上げたことも、間違いなく本人、そしてレスターの成功の一因である。