山部佳苗、弱さを受け入れ取り戻した自信 大逆転でつかんだリオ五輪柔道代表

平野貴也

ライバルとの一騎打ちに一本勝ち

柔道女子78キロ超級のリオ五輪代表に選出された山部 【写真は共同】

 非情の攻めに迷いはなかった。

「一本勝ちをしないと代表の選考レースでは難しいかなと思っていた。一本勝ちをしてやっと(代表選出の可能性があるか)どうかなという気持ちだった」

 審判の「待て」がかかって止まった時計が示した試合時間は、残り50秒。足を痛めてなかなか起き上がれなかった田知本愛(ALSOK)に対し、山部佳苗(ミキハウス)は容赦なく襲いかかった。田知本が左ひざから崩れ落ちたところを隅落としで攻め、そのまま横四方固めで抑え込んで合わせ技による一本勝ち。ライバルを仕留めた。

 リオデジャネイロ五輪の柔道女子78キロ超級の日本代表最終選考会を兼ねた第31回皇后杯全日本女子柔道選手権。代表候補同士の一騎打ちとなった決勝戦は、極めて重要だった。
 昨年の世界選手権で銀メダルを獲得するなど、実績で上回る田知本に、直接勝って存在をアピールするしかなかった山部は「相手がどうかではなく、一本勝ちをしなければということしか考えていなかった。50秒しかない状況で、どうやったら一本勝ちをできるか。相手がどうやって(左足を)痛めたのかは分からない。夢中だった」と相手の負傷に動揺することなく攻め切った。

 試合が再開したとき、横浜文化体育館で試合を見ていた誰もが、山部の勝利を予感した。田知本は、片膝立ちになることすらままならず、グラグラと揺れそうになる体のバランスをどうにか保って立ち上がるのが精いっぱいだったからだ。抵抗する術などあるわけがなかった。

思いと覚悟が詰まった決勝戦

 山部が試合に勝っても、田知本が代表に選ばれる可能性は十分に考えられた。それだけに、山部は一本勝ちという完全決着にこだわった。五輪の出場切符は、1枚しかない。厳しい現実が、4年間の思いをかけた最後の攻撃を生み出した。

 負傷した相手を攻める。その行為に複雑な胸中はなかったか、という質問に「一本を取るためには、手段を選んでいられなかった」と言い切る姿には、この試合にかけていた思いと覚悟が漂った。

 山部の代表選出は、土壇場の大逆転だ。大会終了後、代表内定選手の発表を行った全日本女子代表の南條充寿監督は「対外国人選手の成績の話は、強化委員会でも出た。ちょっと山部には課題が多いのではないか、田知本の方が、実績があるのではないかという声はあった。ただ、(最近の)海外での成績に若干の開きはあったが、2014年に関しては(田知本と)互角。直近では(山部は)少し見劣りするが、力はある。冬季の欧州遠征、福岡での体重別選抜、今日(皇后杯)の3戦を見て、どちらがいいのかという点を重く見て山部の代表選出となった」と、山部が実績面で劣ることを認め、最後のひと押しが効いたことを明かした。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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