山部佳苗、弱さを受け入れ取り戻した自信 大逆転でつかんだリオ五輪柔道代表
自己変革で蘇った攻撃的な柔道
ライバル・田知本との決勝戦に一本勝ち。最後まで攻め続ける山部の攻撃的な柔道がかえってきた 【写真は共同】
2月、グランドスラム・パリ大会で初戦敗退を喫した頃のことを、山部は「毎回、ここで変な試合をしてしまったら、もう代表に選ばれなくなってしまうかもしれないと結果を怖がっていた。試合が来るのが怖かったし、練習で畳に上がるのも怖い時期があった。そういう気持ちが結果に出てしまった」と振り返った。
プレッシャーに押し潰され、持ち味である攻撃的な柔道を失っていた。しかし、パリで絶望の淵へ追いやられ、何かを変えなければ可能性は見えてこないと思い至ったという。他人の話を聞き、ラグビー日本代表の活躍をメンタルコーチとして支えた荒木香織氏の著書などの本を読み、試合に対する心構えを変えていった。そして、弱さを他人に見せることを嫌って強がる自分が、抱えきれなくなった不安に持ち味を奪われていたことに気が付いた。自分の中にある弱さを受け入れ、向き合おうと考えた。山部は「不安を誰かに言ったら負け、他の選手はもっと苦しいかもしれないと思っていた。でも、自分は自分。不安があった。言ってみたら楽になった。コーチに柔道をやりたくないと言っても『やろっか』と言われるだけだったけど」と笑いながら、自己変革を行ったことを明かした。
「金メダルを目指したい」
今大会では、全試合で開始と同時に相手の胴着をつかみに行き、積極的に攻めた。初戦と準決勝は、秒殺勝利。決勝こそ序盤は拮抗(きっこう)したが、先に攻めて、田知本に2つ目の指導が与えられる展開に持ち込んだ。当然のごとく攻めに転じた田知本に対し、山部は受けに回らず押し返した。
「昨年(の同じ大会で同じ相手に)負けたことが悔しかった。いまだに悔しい。なんで、あそこで一歩行けなかったのか。昨年の悔しさがあって、今日がある。自分との戦い。絶対に下がらないという思いだけだった。何が何でも一本、どんな形でもいいから一本と思っていた。何があっても退かない、前に出るしかないと思って、ガンガン出られた」と攻めた結果が、大逆転の代表選出につながった。
執念の一本でチャンスをつかんだ山部は、代表発表後の記者会見で、「この優勝をきっかけに、自分に自信を取り戻せた。五輪ではもっともっと攻める柔道をして金メダルを目指したい」と、次なる舞台への思いを口にした。小さかった可能性をぐっと広げてつかんだ夢舞台。そこには、迷うことなく攻める山部の姿があるはずだ。