データに頼りすぎる野球に警鐘=第88回センバツ高校野球総括

松倉雄太

目立った外野の浅いポジショニング

今大会屈指の右腕・高田からレフト頭上のタイムリー二塁打を放った高松商・美濃。データから極端に浅い外野手のポジショニングが目立った 【写真は共同】

 次に甲子園戦術で気になった点を提言してみたい。試合の前半に何度か見られた外野手の極端に浅いポジショニングを越えていく打球だ。象徴的だったのは2回戦の高松商高vs.創志学園高。3回に2死満塁のチャンスを作った高松商高は、5番・美濃晃成(3年)がレフトの頭上を越える走者一掃の二塁打を放った。続く6番・植田理久都(2年)が2ランを放ち一挙5点。創志学園のエース・高田萌生(3年)にとってはあまりにも重い失点となった。

 高松商の米麦圭造主将(3年)は決勝前に、今大会で一番印象に残っている場面としてこの創志学園戦での美濃の二塁打を挙げた。「高田投手からこんなに点を取れるとは思ってなかった。あの5点がなければ、勝てなかったかもしれない」。米麦主将のコメントも含めて考えてみると、たとえ定位置や深めのポジショニングで外野手を越えられる打球を浴びても、2点までで止められていれば状況は違ったかもしれないとも感じられる。

 1点や2点と、3点では次の打者への攻め方も変わってくる。結果的に植田理の本塁打までは想定できなかったが、打たれた選手が塁に残ることで、4点目を失う可能性も高くなる。そう考えれば、この場面での外野手のポジショニングに他にどんな選択肢があったかをあらためて考えるきっかけにしてほしい。

 この一戦以外でも、試合前半に外野手の極端に浅いポジショニングを越える打球を打たれ、それを指示した捕手たちに話を聞くと、そのポジショニングに至った理由はしっかりと説明してくれた。それはデータに基づいての考えもあったのかと質問をすると、全ての選手が「はい」と回答した。

データが逆に仇となることも

 高校野球とデータ。優勝した智弁学園高もベンチ外の3年生が時には睡眠時間を削って対戦相手のデータを分析したように、技術が進化した現代では、データが試合の勝敗を握る重要なカギとなっている。出場する選手もその姿を見ているから、信用をする。だが、同じ相手と1回しか対戦しないことが多い甲子園ではサンプルが少なく、直前に地方大会をしていないセンバツは、ほとんどが秋の大会での資料となる。それを使って分析したデータが逆に仇となり、致命的な失点をしてしまうこともある。

 特にベンチや内野手から距離があり、表情が見えにくい外野手へのポジショニングの指示には、慎重かつ理解させるだけの間が必要だと感じる。投手がストライクを投げられない時、得点を奪われた時、内野手以上に外野手は表情に出やすい。

 さらに投手が分析したデータ通りの所へ投げられるだけの制球力がなければ、データを使ってのポジショニングの精度が低くなる。試合序盤でデータ通りにいかないと、次からそのデータが信じられなくなる。そうなってしまえば試合終盤がガタガタになってしまう恐れがある。選手が疑心暗鬼になっては勝負にならない。分析したデータをある程度信頼しても、頼りすぎてはダメだというのが、今大会で強く感じた傾向だ。

 地方大会とは違い、甲子園では点差によるコールドゲームがなく、必ず9回まで試合が進む。今が何回で、この場面で何点を取られてはいけないのか、何点までなら相手投手との力関係で残りの攻撃イニングでの挽回が可能なのか。試合の流れも頭に入れながら、時にはデータを捨てる勇気を持ってほしい。同じ相手と何度も対戦をしてデータを積み上げていくプロ野球や大学野球のリーグ戦と、トーナメントの高校野球ではデータの信用度がまったく違うと言いたい。データ通りいかなかった時にどう対応して戦術を変化させていくか。今大会をもう一度見直して、考えてみてはどうだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント