智弁学園を初優勝に導いた目標設定 部員の“まとまり”を強めたある言葉

楊順行

考える野球で古豪復活果たした高松商

古豪復活を印象付けた高松商。「とにかく120パーセント強く振る」という強力なスイングと自分たちで考える野球で決勝まで勝ち上がった 【写真は共同】

 第1回のセンバツ王者の古豪で、秋の神宮大会覇者である高松商高の復活にもふれておこう。14年、長尾監督の就任と同時に、「地元から甲子園に行こう」と今の3年生が入学した。安西ら主力選手は他県の強豪からも誘われていたが、四国アイランドリーグの野球教室などで知り合った選手たちが、申し合わせたように高松商高に進んだのだ。以来、「とにかく120パーセント強く振る」ことを意図して、打撃を磨いた。さらに安西、美濃晃成ら、「校内のクラブ対抗リレーでは、陸上部もぶっちぎる」(美濃)俊足の選手がそろい、得点力は飛躍的に高まる。

 実際このセンバツでも、「打てる気しかしない」という美濃らを筆頭に、鋭いスイングスピードから強い打球を飛ばし、俊敏に塁間を駆ける走塁は鮮烈で、準決勝までの4試合で33得点を挙げた。そして高松商高の場合、古豪からイメージされる規律と統制だけの野球では決してない。練習中から白い歯が絶えないし、なにより監督のサインに従うだけではなく、選手たちが考える野球がモットーなのだ。

香川県勢として12年ぶりの春勝利

 たとえば、秀岳館高との準決勝。延長11回の1死走者なしから、セーフティーバントで出塁した荒内俊輔へのサインは「任せた」。一、三塁と拡大したチャンスにも、4番・植田響介へのサインは「任せた」。ここで植田響は、「ここまで、初球はすべて直球」と狙いすましたそのストレートを、センターへはじき返した。

 荒内は言う。
「入学したときから、たとえば盗塁ならカウント、状況などを考えて走れ、とたたき込まれました。練習試合を重ねるうちに、変化球のカウントだな、とか、走るシチュエーションや空気というものが、わかるようになってきた」

 決勝こそ、「今大会ナンバーワンでしょう」(長尾監督)という村上に対し、低めにボールになる変化球の見極めが徹底できなかったが、55年ぶりの決勝進出は評価していい。実は、野球が強いイメージのある香川県だが、センバツの勝利は12年ぶり。過去10年の甲子園に限るなら、春夏通算わずか2勝で、これはなんと47都道府県中最低だったのだ。

開幕戦で完封、決勝でサヨナラ打

 村上の全試合完投での優勝は、昨年の敦賀気比高・平沼翔太(現北海道日本ハム)に続くもので、村上は5試合47回、669球を投げ抜いた。
「(監督からは)全試合行け、といわれていました。開幕戦のほうが緊張して、今日は決勝という感じがしませんでした」

 村上を横目に、5試合完投を指示した小坂監督本人がしみじみと語る。
「開幕戦で完封して、最後は自分のサヨナラ打。なにか持っていましたね」

2/2ページ

著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント