小塚崇彦、単独インタビュー 引退発表後に語った「氷上を去る」理由
アイスショーに惰性では出たくない
毎日滑っていないと良いパフォーマンスは出せない。小塚が今後アイスショーに出演しないのは、社業との兼ね合いで練習する時間がないからだという 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
今現在は、アイスショーに出演する予定はありません。
――その理由は?
スケートはやはり毎日滑っていないと良いパフォーマンスを出せないと思うんですよね。仕事をやりながらそれができるかと言うと、僕はそんなことはないと思っています。アイスショーに惰性では出たくないし、今の僕は社業に専念すると決めたので。社業をやりながらアイスショーに出演できるレベルを保てればいいとは思いますが、僕は無理です。なので僕はアイスショーに出ることはないと思います。
――選択肢はいろいろあったと思うのですが、社業に専念するに至った経緯は?
今までスケーターとして競技をやっていく延長線上で、そのままコーチになられた先生方や、アイスショーに出ている先輩方もいますし、スケート連盟に行った方もいます。その3通りは1つの道として確立されていると思うんですけど、その道は僕が見るに満員な気がしていて……。なのでもう1つの道として、トヨタ自動車という世界的な企業でやっていきたいなというのが大きな理由です。あとは僕がスケートで滑る以上に、そこには僕が勉強できること、学ぶことがあると思っていて、期待して入社するという感じです。
それに加えて、豊田章男社長の存在も大きいです。すごく現場を大切にされている方で、スケート界で考えると現場イコール選手じゃないですか。その選手を大切にする、現場を大切にされる方で、しかも世界的にあの規模の会社を経営する方のもとでやってみたいと思ったというのもあります。
――性格上、未知の分野に進みたいという思いもあったのでしょうか?
トヨタという企業で働くことによって、今まで経験したことがもっと深くなるんじゃないかなと思っています。トヨタに行っていち社会人として、スキルを学びながらいろいろなことを知っていく。トヨタの中にもスポーツ選手がたくさんいるので、ほかのスポーツ界からスケート界を1回見てみるのもいいんじゃないかなと。僕はフィギュアスケートしか知らないので、いろいろ感じる部分も出てくるんじゃないかなと思います。もしかしたらスケート界ってすごく良い所なのかなと思うかもしれないですし、こういった部分は改善するところがあるなとか思うかもしれないですし。どう感じるのかはこれからですね。
頭の中からスケートは離れない
1つの選択肢ではありました。でも僕の中では、このタイミングではないと思いました。
――いつかスケート界に戻ってくる可能性は?
スケートは好きなので、頭の中からスケートが離れることはないと思います。ただ、未来は分からないですね。戻ってこないかもしれないし、もしかしたら皆さんが思っているより早く戻ってくるかもしれないですし(笑)。
いつかスケート界に戻ってくる可能性については、現時点では「分からない」という 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
アスリート専門部会に参加された方は、本当に自分の意見をしっかり持っていました。毎回の会議に参加されていて、ただ意見を言うだけではなくて人の意見に耳を傾けることができる。傾けることができてなおかつ返すことができる。討論ができる。そういう人たちが集まっていたし、ほかの世界をちょっとずつですが、知ることができました。そういった意味ではいろいろなスポーツの人が集まって、知識を持った人たち、しかもアスリートでやっていた人たちが集まっているというのはすごく興味深かったですね。
――その部会員は続けるとのことでしたが、こういった活動をしてみたいという希望はありますか?
「オリンピック研修会」というのがあるんですね。オリンピアンの人たちが、もっと自分たちが五輪に出たということを誇りに思って、五輪というのはどういうものなのか、そこでどう感じたのか、自分がどういうふうにやってきたのかを広めていこうという会なんです。そういうところにフィギュア、スピードスケート、ショートトラックだけではなく、冬季も夏季も含めていろいろな選手がそこで「自分はこうだった」というのを1つのテーマとして話し合って、自分がオリンピアンだったという誇りを持って社会に出ていける環境を作っていくのが、1つの目標になるのかなと思ってます。あとはアスリートの人たちが少しでもより良い環境でやっていけるように、整備していくなどやっていくことはたくさんあると思っています。
――以前お話しを伺ったとき、「現役を続けるのは新しいチャプター(章)の始まり」とおっしゃっていました。今後はどういうチャプターにしていきたいとお考えですか?
これからどうなっていくか分からないですけど、なんだかんだ言ってチャプターのタイトルの上にはフィギュアスケートというのがくっついていると思うんですね。フィギュアスケートというものは絶対に僕から離れない。どんなチャプターになるかは僕の頑張り次第で変わってくると思うし、氷からは離れますが、いろいろな面でフィギュアスケートに恩返しできるような、そんなチャプターにしていきたいと思います。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
※小塚選手のインタビューは計3回にわたって掲載する予定です。