小塚崇彦が演じた華麗なる“復活劇” どん底からの再生、手にした大切な財産
あえて難易度を高くし、攻めに出る
今季苦しんだ小塚が3位。FSで高得点をたたき出し華麗な“復活劇”を演じた 【坂本清】
「今シーズンはなかなかジャンプが決まらなかった。今回も小さなミスはしましたけど、最後までしっかり滑り切ることができました。自分自身でもうるっとくる、何かが気持ちに触れる演技でしたし、今後を前向きに考えられる結果だと思います」
12月27日に行われたフィギュアスケートの全日本選手権、男子フリースケーティング(FS)。前日のショートプログラム(SP)で6位と出遅れていた小塚は、FSで173.29点をたたき出す見事な演技を披露し、合計245.68点の3位に浮上した。
意地と気迫が生んだ“復活劇”だった。冒頭の4回転トウループはなんとか着氷。続くジャンプは事前に提出されていた構成ではトリプルルッツ+ダブルトウループの予定だったが、4回転を入れたコンビネーションに変更した。「勇気を持って、自信を持って、自分を信じろ」。そう言い聞かせながら、あえて難易度を高くし、攻めに出た。演技後半のトリプルフリップではバランスを崩しながらも、かろうじてこらえた。最後は代名詞とも言える流れるようなスケーティングで締めくくる。4回転は2つとも回転不足を取られ、決して完璧な演技ではなかった。それでも待っていたのは、この日1番のスタンディングオベーションだった。
「FSでなんとかこの全日本選手権にフィットできました。今年で考えると残念な結果に終わってしまったかなという感じですが、とにかく『まだできる』『まだ体も動く』ということが分かりましたし、気持ちもまだまだ切れていなかったということも確認できました」
「スケート人生最悪の出来」だった初戦
大崩れした今季初戦のジャパンオープン。GPシリーズ開幕後もなかなか立て直せなかった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
グランプリ(GP)シリーズが開幕しても復調の気配は見られなかった。スケートカナダは8位、続くロシア杯でも6位に沈む。ファイナルには五輪王者の羽生結弦(ANA)、町田樹(関西大)、無良崇人(HIROTA)の3選手が進出。羽生が連覇を飾るとともに、ジュニアでも宇野昌磨(中京大中京高)が歴代最高得点で優勝するなど日本男子フィギュア界には華々しい話題が続いた。
そんな状況にあって、小塚はひとり蚊帳の外だった。キャリアのピークを迎える中堅や勢いのある若手に対して、25歳の自分はどう戦っていくのか。目標としていたソチ五輪出場は夢に消え、同じ時代を共に戦った仲間は昨季を最後に引退した。「自分が競技を続ける理由は何だろう」。そう自身に問いかけることもあった。
「みんなが辞めていく中で続けてみるのも面白いし、フィギュアがやはり好きだから」と現役続行を決意したものの、モチベーションはなかなか上がってこない。「燃え尽き症候群かな」と感じたのはテレビドラマを見ているときだった。「シーズン序盤から頑張りたかったんですが、今季は気持ちが落ちていたので、自分が思っている以上に大変でした」。それでもこのまま終わるわけにはいかなかった。GPシリーズは第4戦の出場が最後となったため、全日本選手権まで1カ月以上かけて、メンタルと技術面の調整に励んだ。