外様の社長と監督が抱く「王国復活」の夢 J2・J3漫遊記 清水エスパルス 後編
「清水からオファーをいただくなんて光栄」
今季から清水の指揮を執る小林監督。ランニングも選手との大切なふれあいの機会 【宇都宮徹壱】
「距離感が近いですよね。何か気付いたら、すぐに選手を呼んで誰とでもしゃべる。積極的にコミュニケーションをとってくれるので、すごくやりやすいです」(大前元紀)
「守備の意識が変わったかな。今までの清水は、あまり後ろに人数をかけていなかったけれど、今季は(攻められたら)まずは全員で戻ろうと。J2で長く経験している監督なので、守備だけではなく全体のバランスがとりやすくなると思います」(杉山浩太)
昨年11月25日、小林の監督就任がアナウンスされると、多くの清水サポーターはこの人事をポジティブに受け止めた。過去、清水を率いた日本人監督は7人。このうち、クラブや静岡にまったくゆかりのなかった人材は宮本征勝のみである(石崎信弘は広島出身だが、ヘッドコーチからの昇格)。長崎出身で清水との接点をまったく持たなかった小林は、言うなれば完全なる外様だったわけだが、これまで3つのJ2クラブ(大分トリニータ、モンテディオ山形、徳島ヴォルティス)を昇格させた実績は誰もが認めるところ。1シーズンでのJ1復帰を目指している清水にとって、これ以上にない人選である。
もっとも先の開幕戦は、指揮官である小林もかなり緊張していたようだ。「清水といえば歴史あるオリジナル10のチームだし、あれだけ多くのサポーターに注目されながら初めてのJ2を戦うんだから。いくら経験があるといっても、そりゃあ緊張するのが普通じゃないですか」と、4つのJクラブ監督を歴任したとは思えないくらい、初々しい発言をしている。サッカーの街・清水へのリスペクトは実に明快だ。
「初めて清水に来たのは、高校1年(島原商業高)の春にフェスティバルに参加したときでしたね。われわれの世代にとって、『静岡のサッカー=強い』でしたから、いろいろ間接的に刺激を受けた県なんですよ。この仕事をしていて、清水からオファーをいただくなんて光栄じゃないですか(笑)」
「昇格請負人」ではなくJ1での実績を評価
クラブ史上初めてJ2を戦う清水。「1シーズンでJ1復帰」が今季最大のミッションだ 【宇都宮徹壱】
「いやあ、驚きましたね。というのも、僕はてっきり『昇格請負人だからオファーをくれたのかな』と思っていたわけです。そしたら、むしろJ1でも実績を残していることを社長は評価してくれた。そこが、これまでのオファーと一番違っていたところでしたね」
05年のC大阪といえば、西澤明訓、森島寛晃、ゼ・カルロス、下村東美らを擁し、第19節以来15試合負けなしの怒とうの追い上げが注目を集めていた。そして第33節終了時、ついにC大阪は首位に立つ。あと1勝すれば悲願の初優勝だった。「ところが長居でのFC東京戦で引き分け(2−2)、終わってみれば5位ですよ。あのメンツで結果が出せなかったのは、僕もまだ若かったということでしょうね」と小林。あの時もし優勝監督になっていれば、今とはかなり違ったキャリアとなっていたかもしれない。
ともあれ、長らく「昇格請負人」と認識されていた小林にとり、05年の自分を見てくれていた左伴のオファーは、清水という土地に対する畏敬とプレッシャー以上に、大いにモチベーションをかき立てられるものとなった。その一方で、これまで清水が是としてきた「自分たちが主導権を握り、魅力的な攻撃を仕掛けていく」というスタイルについては、今後は自分なりに精査することを示唆している。それは取りも直さず、「1シーズンでJ1復帰」というミッションを果たすためであることは言うまでもない。
「昇格という明確な目標があるんだったら『勝つために何をすべきか』ということですよね。J2というのは、J1に比べて技量が低い分、激しさがある。ピッチが良くない会場も多いから、ボールコントロールがうまくいかないし、むしろテクニックがないチームの方がやりやすい(笑)。理想とするスタイルを追い求めても勝てないなら、諦めずに90分間戦い続けるしかないわけですよ。僕はね、サッカーに感動を覚えるのは洗練さも確かにあるだろうけれど、一生懸命さというのもあると思っている。そこで、どれだけ共感が得られるかというのが、重要になってくるんじゃないですかね」