リオ内定、洞ノ上が語る選考レースの裏側 車いすマラソンで行われる駆け引きの妙
東京マラソンで日本人トップの3位に入った洞ノ上(右)に、レースの舞台裏を語ってもらった 【スポーツナビ】
今大会に向け、洞ノ上は石垣島で9日間の合宿を敢行し、レース終盤の追い込み練習やバテた状態でのスピード練習を繰り返した。その本番のレース展開を見越したトレーニングが、今回の東京でも随所に生きたという。そこには、車いすマラソンで行われるレース中の駆け引きの要素が詰まっていた。
今回は洞ノ上にレースを振り返ってもらい、自身3度目のパラリンピックとなるリオに向けた意気込みを語ってもらった。取材を行ったのは2月29日。リオの切符をつかんだ翌日のことだけに、前日のレースを思い出しながら、洞ノ上が興奮気味に語る姿が印象的だった。
過去最高の状態で臨んだ東京マラソン
過去の状態よりも体が動いているなと感じました。事前合宿から手応えを感じていて、(マシンを漕ぐ)ピッチが上がる感覚がありました。ただ上がるだけではなく、力が伝わっている感覚もありましたね。
代表になる条件からタイムだけは頭の中からはずして、総合3位以内、日本人1位になるぞという気持ちでずっとトレーニングをしてきました。それがうまくはまり、良いタイムでゴールできたので、ホッとしています。
――具体的に何が良かったのでしょうか?
一番は背水の陣だったことでしょうか。昨年の大分国際マラソンで日本人トップだった山本(浩之)選手が代表に決まり、残りはあと2枠になりました。残る選考レースは今回の東京、それから4月のロンドンとありますが、このレースで該当者がいなかった場合、代表は世界ランキングの日本人上位3名に決まります。
上位は山本選手、副島(正純)選手、西田(宗城)選手で、自分は4番目のタイムです。今回のように、結果を残さなければ代表に選ばれないという状態は過去に経験がなかったので、プレッシャーがかなりありました。それが集中力を生み出し、過去最高の状態で東京マラソンに臨めた要因だと思います。
ポイントとなったレース中の駆け引き
レース中は常に駆け引きが行われている。洞ノ上(右)は雷門付近での駆け引きをポイントに挙げた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
前半の4キロぐらいで日本人選手を振り切り、外国人選手と一緒に逃げ切るのが第一のプランでした。それができなかった場合、最後の36キロ地点から始まるアップダウンで一気に逃げようと考えていました。
最初のプランについては、レースが思いのほかハイペースで進み、自分もなかなか前に出られず、実行できませんでした。そこからは仕掛けたり、仕掛けられたりしながらの攻防が続いたんですけれど、雷門(約28キロ地点)あたりで自分が先頭で仕掛けました。すると、(クート・)フェンリー選手だけがピタッとくっついてきて、2人で逃げる形になりました。この距離から逃げるプランはなかったのですが、「行くしかない」という感じで、自分が風を受けながら思いきり仕掛けました。
ある程度自分も疲れてきて、フェンリー選手に先頭を譲ろうとしたのですが、彼は前に行ってくれませんでした。本来は2人でローテーションを繰り返しながら後ろを引き離すのですが、フェンリー選手はスプリントを得意としているので、これ以上引き離す必要がないと判断したのだと思います。
その後、(エルンスト・)バンダイク選手が一気に追いあげて、結局また一つの集団になってしまいました。そうしたら今度は西田選手が前に出て、自分がまた追いかける展開になりました。今まで散々逃げてきて、「追いつかれた」と思った瞬間に今度は追い抜かれた。ここで誰も追わなかったらリスクが伴うので、自分が行くしかないと思ってまた追いかけました。それが一番きつかったですね。
――各選手に狙いがあり、状況が変わり続ける中、どこで仕掛けるかが大事なんですね。
自分も30秒くらい後ろで休んだら回復するような体力が合宿で付いてきたので、その後はまた横に出てペースを上げたりと、みんなが嫌がるような走りをしました。そのペースを上げて、休んでを繰り返しながら最後の36キロ地点を迎えました。そこの坂でさらにペースが上がったことで今度は西田選手が遅れました。