リオ内定、洞ノ上が語る選考レースの裏側 車いすマラソンで行われる駆け引きの妙
上位4人で争った終盤のデッドヒート
終盤までデットヒートが続いたが、洞ノ上(中央)は合宿の成果からゴールスプリントに自信を持っていた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
すごく気になりました。副島選手が最後に来ることは準備していましたね。この大会で日本人1位になるのと、2位に終わるのでは全然違うことは、自分も副島選手も分かっていることです。けれども、42キロを走ってきて絶対に自分に分がある、自分の力を出し切れば勝てると思っていました。
レースは最後の上り坂を下った段階で鈴木(朋樹)選手が切れてトップが4人になりました。その後、下ってからの左コーナーで副島選手が先頭に出ました。「そうはさせるか」と思って自分はさらにペースをあげて先頭に立つと、直線になってからは何も考えずに全速力でしたね。そこからの約200メートルは合宿でずっとトレーニングをしていたので、副島選手には抜かれない自信があったんです。
その時、思いのほか早い段階でフェンリー選手に抜かれたので、彼はどれだけ(力を)溜めていたのかと思いましたけれど(笑)。
――約1時間半のレース中はいつ勝負を仕掛けられるか分からないし、精神的にも大変ですね。
本当にそういったときに、弱い自分が出てくるんです。この集団から抜け出す勇気があるかどうか。自分からアタックしたときにはリスクを伴います。カウンターで自分が疲れたときに仕掛けられたらどうしようとか。ただ、それでも仕掛けられるようなトレーニングをしてきました。
合宿ではバイクで追い抜いてもらい、それを追いかけるトレーニングをしていました。どこでくるか分からない中で、追い抜かれたらすぐに追いつく。これを40キロ走る中でランダムに繰り返してもらうんです。追いついた瞬間にすぐ追い抜かれたり、追いつけないようなスピードをずっと出されたり……。最後は相当へばった状態から100パーセントの力でタイムトライアルを行っていました。
だから自分はカウンターを仕掛けられてもついていける。もしくはアタックしたら誰もカウンターを仕掛けることができない。レースが終わってから、フェンリー選手も「浩太のアタックはきつかったし、何度心が折れそうになったことか」というコメントをしていました。それはトレーニングがすごくはまったのかなという手応えがありますね。
リオに向けた課題と伸びしろ
内定を勝ち取るため、これまでは東京マラソンに全てを集中していた。ここからリオに向けた新たな戦いが始まる 【スポーツナビ】
自分とフェンリー選手とがゴールスプリント勝負をすると、これまで約2秒の差がついていました。今回は約1秒なので、ちょっとは成長したのかなと思います。差を埋めることも大事ですけれど、リオでは相手をへばらせる作業も必要だと思っています。
42キロまでに相手をへばらせて、どこかで切り離すことができれば一番です。それができない場合、自分もへばっているけれども、相手もへばっているという状態でのスプリントで差を縮めるということが、リオに向けては必要になると思います。
――それは今大会で手応えを得られたということでしょうか?
ゴールスプリントは前からの課題です。他にも強い選手はいますし、やっぱりスタミナをつけて引き離すという作業が大事だと再確認しましたね。
――北京、ロンドンと過去2大会を経験していますが、パラリンピック特有の難しさは感じましたか?
やはり4年に1度のパラリンピックというのは海外の選手のコンディションの上げ方がすごいですね。別人のように仕上げてくる。それは肌で感じてきています。
世界選手権やアジア大会で日本代表も経験していますが、パラリンピックは別次元です。選手の緊張感であったり、大会の雰囲気、メディアの盛り上がりや世間の注目度といったすべてが別物ですね。
――リオでは何がポイントになると思いますか?
これまでは東京マラソンに全てを集中していました。リオのことも気になったりはしたんですけれど、まずはリオを決めないと。それは順番的に違うのかなと思っていました。これからはすっきりして、リオに向けていろいろ準備していきたいと思っています。
5月にはプレ大会が行われます。ポイントとなるところをしっかりチェックして、そこを徹底的にトレーニングするという感じですね。
(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)