サンウルブズ・田邉コーチが目指すもの 「沈みかけたところから豪華客船に」

向風見也

ハメットHCと情報の共有を

サンウルブズの指揮を執るハメットHC。後方が田邉コーチ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 チャンスが回ってきたのは、2015年の12月だった。発足の準備がままならぬサンウルブズの運営サイドから入閣を誘われ、田邉はすぐに快諾した。パナソニックのバックスコーチとの二足のわらじを履くことを決め、「ここで手を挙げなかった選手、コーチに悔しいと思ってもらいたい」と決意した。

 HCの「ハマー」ことハメットとは、始動前から連絡を取り合った。2月上旬から愛知、沖縄で合宿をするなか、今回が初来日という指揮官の意図を汲みとっていった。

「今はみんなで助け合っていく環境づくりを大事にしているんだ、と。確かにひとつの脳みそより、40個の脳みそが集まっていた方がいい。間違いなく言えるのは、ハマーは日本人選手のことはまだそこまで把握してない。僕もその手助けもできれば。できるだけみんなで同じ画を見るために、僕が知っている日本人の情報を共有したい」

 グラウンド上では、攻撃戦術の確立を担う。他の首脳陣と意見をすり合わせ、大まかな枠組みを練る。それを日本代表経験者の堀江や日和佐篤、立川理道、田村優、サントリーでもプレーするピシといった「ストラテジー(戦略)リーダー」に「どう思う?」と投げかける。煮詰め、まとめた意見を、チーム全体にプレゼンする。

「どうスペースをつくるのかを選手間で共有すれば」

 昨秋のワールドカップイングランド大会を戦った日本代表は、ジョーンズのもと「シェイプ」という複層的陣形を作った。選手が運動量を生かして駆け回り、相手をかく乱させた。1日2〜4回の猛練習で、それに必要な体力も鍛えていた。かたや今後の代表強化も支えるサンウルブズは、攻め方をやや簡略化した。

 キーワードは、「スペースクリエイター」と「フィニッシャー」。プロップ、フッカー、ロックという黒子役が、「スペースクリエイター」として接点で相手を引きつける。それ以外の選手が「フィニッシャー」として、空いた場所を一気にえぐる。

「エディージャパンは、準備期間があったからあのラグビーをできた。ただ、2〜3週間ではあれだけのフィットネスをつけるのは無理だし、戦術を落とし込む時間もない。1、2歩下がったところから始めないと」

 田邉は解説する。

「このチームにはスーパースターはいない。ただ、ハードワークする選手がたくさんいる。どうスペースをつくるのかを選手間で共有すれば、自ずといいチャンスが生まれてくる気がします」

「ゼロから作り上げる経験はプラスになる」

次世代の選手が憧れるチームを作ることができるか? 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 初戦の後は、「お互いをもっと知り合うことが大事」とも展望した。現在ニュージーランドの高校へ留学中の長男・淳之介にも、自らの現役生活を通じて日々の鍛錬の大切さを伝えてきたつもりだ。「それがかえってプレッシャーになるかもしれない」なんて、迷いを口にしながら。とにかく、地に足をつける。

 沖縄では、ゴールキックの居残り練習にも加わった。ピシとともにキッカーを務める田村、立川のフォームや精神バランスを安定させるべく、蹴り込む姿を動画撮影。すぐにうまくなる魔法などないから、まずは個別の課題を丁寧に抽出する。

「コーチとしての目標ですか?……ゼロから作り上げるチームが、実際にどう作り上げるのかを知るのは間違いなくプラスになる。今度、似たような状況のチームに呼ばれてもすぐに対応ができる……。そんな風になれたらと思いますね」

 魅惑的な言葉と地道な下働きで、派手な「豪華客船」を作り上げる。その経験を、もっと広い世界で生かしてみたい。

2/2ページ

著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント