『ジョーのあした』に見る辰吉丈一郎 “家庭人”であり“現役”であること

しべ超二

95年8月からの姿が描かれる

ボクサー辰吉丈一郎の生き様を追った映画「ジョーのあした」が公開された 【写真は共同】

 1995年8月から2014年11月まで。ボクサー辰吉丈一郎の25歳から44歳までを追った映画『ジョーのあした−辰吉丈一郎との20年−』が公開となった。だが、誰よりボクシングにこだわったその姿を描きながら試合のシーンはわずかで、映画は主にインタビューに答える辰吉の顔と言葉で構成される。ボクサー、父・粂二の息子、そして2人の息子の父親として、自身の思いを曲げることなく生きてきた辰吉の姿が映し出される。

 辰吉は89年にデビューし、その2年後、わずか8戦目にしてWBC世界バンタム級王座を奪取(91年9月)。しかし網膜裂孔に見舞われ、初防衛戦で王座陥落(92年9月)。そこから再起を遂げ、93年7月にWBC世界バンタム級暫定王座を再度獲得するも、今度は網膜剥離により同王座の返上を余儀なくされる。だが、手術に成功した辰吉は海外で復帰戦を行い、これに勝利しWBC世界バンタム級王者・薬師寺保栄との対戦に臨むも判定負け(94年12月)――ここまでで既に1本の映画でも余りあるドラマチックに過ぎる展開だが、『ジョーのあした』は翌95年8月、ラスベガスに戦いの場を求めた時点から始まる。

父とともに描いた世界王者の夢

 辰吉の取材は20年の間で実に17回。20代だった辰吉は30代、40代と歳を重ね、その間に自身の試合はもちろん、子どもの誕生、父の死といった出来事にも直面する。その度に阪本順治監督はカメラを向け、25年を越える付き合いだからなしうる、直球の質問もぶつけていく。

「僕を描くと“家族”というか、もうそれしか言いようがないです。そうじゃないとおかしいでしょ。僕一人だけじゃ辰吉が成り立たないです」

 いみじくも辰吉自身がそう語るように、映画では父を語り息子たちを案ずる姿から“家庭人・辰吉”が浮き彫りとなる。「親は子どもに大したことはできない」と話す一方、「うちの父ちゃんは、分からんくらい凄い」と影響の大きさを語り、今も現役にこだわるその姿は、父とともに描いた世界王者の夢を貫こうとしているようにも見える。

誰よりも人を惹きつけるボクサー

次男・寿以輝(左)もすでにプロで3勝。歴史の長さを感じる 【写真は共同】

 本作では撮影日時や当時の辰吉の年齢が長く画面に映し出される。そのことで観客は当時自分は何をしていたのか、辰吉と同じ歳のころ自分は何をしていのたかと思いを巡らせることになる。撮影開始時はまだ生まれていなかった次男・寿以輝が今ではプロとなり3戦を消化(3勝2KO)。辰吉も「不思議、長いよね」と、自身に流れた時間を改めて感じているようだった。

「ボクサーのドキュメンタリーでもありますけど、1人の人間としての20年でもあります。観てもらって頷く人もいれば、“自分はこの人とは考え方が違うな”って思う人もいると思うし、それはもう映画の観方だと思います。でも、辰吉くんじゃなかったら、こんなに執拗に追い掛けていないです。撮っても撮ってもまだ何か持っているというか、まだ魅力の一部でしかないと思うから続けられたんです」(阪本監督)

 辰吉・監督ともに、続編となる『ジョーのあさって』製作を匂わせる。辰吉が言うように辰吉=家族であるなら、今後も寿以輝の活躍も含め、辰吉一家から目が離せない。
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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。松濤館空手8級。

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