ポリバレントなウェルメスケルケン際 ピッチ内外で見せるドルトレヒトへの貢献

中田徹

選手目線での営業努力

スポンサーデーなどの営業努力を積極的に行っているドルトレヒトだが、際は「かなり足りない」と指摘する 【中田徹】

 インターンシップでクラブの中へ入り込んだ際は、ドルトレヒトはあまりに職員が少なくて日々の仕事に忙しく、スポンサー探しの営業に出ることが難しいことに気付いた。

「みんな事務作業で手いっぱいで、本当に人が足りない。でも、全員が他の部署の仕事もできるという強みがある。だから全員がお互いをサポートできる。みんなが各部署の仕事ができるのは、このクラブの強みです」

 ドルトレヒトはポリバレントな職員の集まりなのかもしれない。そこはサッカーに通じるものがある。

「本当にそうですね。でも、営業に出るマンパワーがない。(小口スポンサー獲得で有名な)ヴァンフォーレ甲府はどんどん営業に出ているじゃないですか。僕はジュニアユースからヴァンフォーレでお世話になっていますが、今回ドルトレヒトと比べてみたら面白かった。論文のために数字を見ると、カツカツながらもヴァンフォーレは常に黒字ですごいなと思いました。昔から知るスタッフさんに『今、何やっているんですか?』と聞くと、『午前中は事務作業をして、午後からヴァンくん(ヴァンフォーレのマスコット)と一緒に保育園に行ってサッカー教室をやりますよ』と。ヴァンフォーレは本当にいろいろやっています。選手たちも練習が終わってスタッフさんから『あそことここに行って、一緒に活動してください』と言われれば、サッカースクールや農業体験のような地域貢献に参加しています。ドルトレヒトも地域貢献活動をしていますが、ヴァンフォーレと比べるとかなり足りない」

 際はドルトレヒトのサポーターデーやスポンサーデ―で、もっと選手が普段から応援してくれる人と交流すべきと感じていた。例えばスタジアムのビジネスラウンジで、スポンサーデーを開催した時、選手は選手で固まって談笑し、夕飯を食べ終えたら帰ってしまった。その間、選手とスポンサーの交流はほとんどなかったという。

「スポンサーは選手を支援してくれている。だから、選手はスポンサーのことをもっと知った方が良いと思います。スポンサーは、ドルトレヒトの選手はどいういう考えでサッカーをやっているのか聞きたいことは絶対にあると思うけれど、そういう時間をまったく設けていない。夕飯が終われば選手は帰ってしまう。スポンサーの方々と話すこと無く会は終わってしまったので、そこは違うと思いました。僕も一緒にいて、もうちょっと何かできたんじゃないかと思います。お互い時間をロストしただけで、すごくもったいなかった」

 1年後、再びスポンサーデーが催されるときは、クラブの関係者とあらかじめ情報交換しておいて、今回のようなことがないようにしておくという。

リオ五輪を目標に自身の課題と向き合う

 肝心の競技の方は、今年に入ってから少し苦しんでいる。後半戦の際は先発出場の機会がなくなり、もっぱら試合途中からの出場になっている。前半戦は主に右SB、時に中盤のアンカーとして出ていたが、今は左SBや右ウイングもこなしている。

「試合に出られないことに少なからずフラストレーションはありますが、監督の指示をベンチの横で聞いていて、SBに要求する動きを確認できているのは良いことです。それで頭の中でSBの動きを整理してからピッチに入ろうとしたら、いきなり右ウイングをやらされた。ピッチの上でやるべきことを、もう一度整理しなおしましたが、最近は左SBなど、ぶっつけ本番でいろいろなポジションをやっています。今は自分のポジションがどこなのかハッキリしていない。自分の中ではSBが一番楽しいですし、伸びしろがあるところだと思っています。将来性が自分の中で見えるポジションだとも感じています。SBをやりたいです」

 際の目標はリオデジャネイロ五輪出場だ。本大会の登録選手数がたった18人であることを思えば、複数ポジションをこなせることは際にとって武器になるはずだが、器用貧乏になることを今は恐れている。

「ユーティリティー性という部分では、もしチームにけが人が出ても、監督は自分を使いやすいと思います。でもいくらユーティリティー性があると言っても、それぞれのポジションでの基準値が低ければ意味がない。実際にオランダでユーティリティープレーヤーとして試合に出ていても、それぞれのポジションでのプレーが五輪という舞台のレベルに達しているかどうかは別物だと思います」

 画質が悪いながらも、際は何試合か日本の五輪アジア最終予選の試合を見たという。

「(本大会への)チャンスはみんなにあると思います。そこをつかみ取れるかは自分次第。でも五輪、五輪と言って、チームでやってることがおろそかになったら、元も子もない。チームがあって代表がある。そこを自分の中で履き違えないよう、まずはドルトレヒトでやりたい。そこを履き違えてはいけない。五輪が目標ですが、まずは自分と向き合って、課題を見ないといけないと思います」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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