「戦略で上回って戦術で勝った」日本代表 快進撃を支えたコンディショニングの徹底
心身両面に効果をもたらした、他国にないアドバンテージ
指揮官の要望で西芳照シェフが帯同し、選手たちに料理を提供し続けたことも心身両面にプラスに作用 【写真は共同】
「唾液を使った疲労チェックだったり、尿検査だったり、血液検査だったり。本当にそういうのも情報としてしっかり処理して、選手たちのコンディションを見極めた中でターンオーバーをやった」(手倉森監督)。
実践していたのは「中○日で起用する」といった機械的なローテーションではなく、個別的に疲労の回復度を推し量る作業である。早川コーチは大会を通じてターンオーバーに関する助言を続け、手倉森監督はその意見を聞きながら、スカウティングチームから上がってくる対戦相手の情報と合わせて、戦術と選手起用の術策を練り上げた。
「でも、あそこまでターンオーバーしてくれるとは思わなかった」と早川コーチは笑うほど、大胆不敵な選手起用を続けた。同じスタメンが連続することは一度もなく、全試合にフル出場するような選手も皆無。
このマネジメントは選手の心理面でもポジティブに作用し、MF矢島慎也は大会途中、「U−19代表時代はみんなで戦っている感覚がなくて、そのまま良くない雰囲気のまま敗れてしまった。でも今は、かつてない一体感がある」と語っている。
「あとは飯だと思った」という指揮官の要望で西芳照シェフが帯同して選手たちに料理を提供し続けたことも心身両面にプラスに作用し、他国にはないアドバンテージを生み出した(韓国は日本と同じくシェフを帯同していた)。
相手の分析を担当したテクニカルスタッフの寺門大輔を始めとする指揮官を支える参謀たちの貢献度も大きかった。「映像を使って、相手の癖やポイントを教えてもらうんですけれど、試合中に言った通りになって『すごいな』と思います」(DF室屋成)と選手からの信頼も抜群。相手の弱みが見えていることは、心理面への安定感にもつながるもので、これも大きな要素だった。
優勝という成果とともに見えた課題
今大会は「戦略で上回って戦術で勝った」日本。しかし、アジアとの戦いですでに「足りない」ものが多いことも明らかになった 【Getty Images】
それぞれの専門分野に関するディテールへのこだわりは、対戦したアジア各国から感じることのできないものであり、それをまとめて生かした手倉森監督の手腕を含めて、チームスタッフの力があって勝ち得たタイトルだったのは確かだ。
逆に言えば、「戦力で勝った」という印象が薄いということでもある。ここはあえて出場が決まったからこそ、厳しい見方もしておきたいのだが、準々決勝以降はいずれも紙一重のゲームを拾っての勝利だったことは認識しておくべきだ。
それはスタッフの力があり、手倉森監督の采配がさえ渡り、選手たちが団結して死力を尽くした結果。準々決勝で対戦したイランは欧州組の招集ができずにベストの陣容ではなかったが、それでも個々の能力の高さで日本を押し込んだ。決勝の韓国戦にしても、劇的な展開に目を奪われて、前半から後半の20分まで強いられていた大苦戦を忘れるべきではあるまい。
本大会に向けて、手倉森監督は「ありとあらゆるところの能力を高めないといけない。それは選手も気付いていると思うし、僕も感じています」と語った。アジアとの戦いですでに「足りない」のは明らかなのだから、世界との戦いを考えると当然「足りない」のだ。それは半年後に迫るリオ五輪本大会に向けての話でもあるし、もっと未来を見据えた、育成をどうするべきかという話でもある。
現状で「足りない」のならば、何をしていくべきなのか。遠くドーハの地で、日本サッカー界は優勝という成果と同時に、確かにそこにある課題も認識させられることとなった。