レブロンとオハイオアンが夢見る“悲願” 杉浦大介のNBAダイアリー キャブズ編

杉浦大介

「良いチームだけれど、すごいチームではない」

レブロンが絶えず「ホーム」と呼び続けたクイックン・ローンズ・アリーナは、“リーグ有数のパワーハウス”となった 【杉浦大介】

 ヒート時代にマイアミの英雄となった後でも、絶えずオハイオを“ホーム”と呼び続けた。2013−14シーズン中には、「戻って来て」と書かれたTシャツを着て、試合中にコートに乱入したキャブズファンを優しく受け止めたこともあった。

 それほどにクリーブランド想いのヒーローが、近い将来、地元チームを史上初の王座に導いたら……。それはほとんどフェアリーテイル(おとぎ話)のラストシーン。筆者が出会ったタクシー運転手の言葉は、やはり単なる誇張ではないのかもしれない。

 もっとも、人生は実際には映画でもおとぎ話でもない。レブロンとオハイオアンが夢見る“約束の地”に辿り着くことは、そんなに簡単な作業ではない。

 8年ぶりにイースタン・カンファレンスを制した昨季も、ファイナルではゴールデンステイト・ウォリアーズに2勝4敗で完敗。今季もイースタンでは1位だが、ウォリアーズ、サンアントニオ・スパーズというウェスタン・カンファレンスの2強相手には3戦全敗と分が悪い。

 特に18日にはウォリアーズとクリーブランドで対戦し、屈辱的な34点差の大敗(98−132)を喫した。今季も優勝するためにはウォリアーズ、スパーズのいずれかを倒さなければいけない可能性が高いだけに、その可能性に疑問を呈する関係者は少なくない。

「今の僕たちは良いチームだけれど、すごいチームではない。現時点で5、6月のプレーオフの話をするのは馬鹿げているよ。僕たちには経験が足りない。ウォリアーズ、スパーズ、シカゴ・ブルズ、トロント・ラプターズ、オクラホマシティ・サンダー、ロサンゼルス・クリッパーズ、マイアミ・ヒートといったチームは同じメンバーですでに多くの経験を積み重ねている。僕たちにはそれがないから、日々、向上することに集中していかなければならないんだ」

 ウォリアーズ戦直後の20日、ブルックリンで迎えたネッツ戦の前にはレブロンも少々いら立ったような口調でそう語っていた。

“エリート”チームに勝てる底力を養うことができるか

 けが人の多さもあって、実際に過去2年のキャブズは主力メンバーの足並みがなかなかそろわなかった。確かにタレントは多いが、レブロン、カイリー・アービング、ケビン・ラブといったスター選手たちの間に、依然としてケミストリーは生まれていないようにも見える。

 今後の目標は、まだ寄せ集めの感もあるロスターに真のまとまりを植えつけること。格下を蹴散らすだけでなく、“エリート”と呼ばれるチームに勝てるだけの底力を養うこと。それを成し得たとき、キャブズにとって覇権への準備はようやく整う。そして、首尾よく2年連続でイースタンを制したとして、ウォリアーズ、スパーズ、サンダーのいずれかと対戦するであろうNBAファイナルは、キャブズのフランチャイズ史上最大級の大勝負になるはずだ。

「(クリーブランドで)優勝できたらどんなに良かったか。東9番街でのパレードがどれほど素晴らしいか想像することしかできないよ」

 10年にヒートの一員として初めてのファイナル制覇を成し遂げた後のこと。初優勝直後だというのに、レブロンはキャブズでの勝利に思いを巡らすような言葉を残していた。その当時から、いやそれ以前から、レブロンとすべてのオハイオアンが夢見てきた“クリーブランドの悲願”は今年に叶うのか。

 決して華やかとは言えないダウンタウンに、紙吹雪が舞うのか。オハイオの田舎町が舞台、地元スターが主演のNBA版フェアリーテイルは、まもなくクライマックスを迎えようとしている。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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