内山高志、井上尚弥らが米国進出へ 日本ボクシング界、転機の1年になるか!?

船橋真二郎

井上は“ロマゴン”との頂上決戦も

年末に完全復活をアピールした井上尚弥は、現役最強王者“ロマゴン”との戦いも期待される 【写真:ロイター/アフロ】

 1年間のブランクをものともせず、年末に1位挑戦者のワルリト・パレナス(フィリピン)を2ラウンドTKOで一蹴したWBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)も、年内の米国進出が期待される。フライ級王座を16度、スーパーフライ級王座を11度防衛していた名王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)を都合4度のダウンを奪う2ラウンドTKOで粉砕した2014年暮れの一戦で、当時プロ8戦目の21歳の名前は瞬く間に海を越えた。そして、海外からも待望されているのが44戦44勝38KOのパーフェクトレコードを誇り、全階級を通じて現役最強の呼び声高い3階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との軽量級頂上対決だ。

 大橋秀行・大橋ジム会長のプランでは、今春に国内での防衛戦を行い、それ以降に米国進出のタイミングを探る予定。一方のゴンサレスは、米国のボクシングサイト『ボクシング・シーン』に対し、次のWBC世界フライ級王座4度目の防衛戦後、9月にもラスベガスでカルロス・クアドラス(メキシコ)のWBC世界スーパーフライ級王座に挑戦するとコメントを残している。つまり、井上と同じ階級に上げてくるかもしれないということになる。ライバル同士を同じ興行に出場させ、対戦ムードを盛り上げる手法は海外ではよく見られる。井上の米国デビューがこのタイミングになるなら期待はいっそう高まるが、日本の帝拳ジムがプロモートしているゴンサレスとクアドラスの対戦にしても公式の発表ではなく、今後の動向を見守るほかない。

 階級をスーパーフライ級に上げてからの井上のパフォーマンスはまさに圧巻の一言。年内にも顔見せとなる米国初戦を実現し、圧倒的なスピード、パワーで存在を強烈に印象づければ、そう遠くない将来に米国でゴンサレスとの一戦が実現する可能性は高まるはずである。そうなれば、軽量級という枠を超えたスーパーファイトとして、これまで日本人ボクサーが経験したこともないような脚光を浴びるのは間違いないだろう。大いなる可能性を秘めた恐るべき才能は23歳になる今年、新たな一歩を刻むことができるか。注目である。

村田は商品価値を証明する1年に

村田諒太の米国初進出は判定勝利に終わり不完全燃焼だった。16年はその商品価値を再び証明する1年になる 【写真:ロイター/アフロ】

 1月30日に中国・上海でプロ9戦目に臨む村田諒太(帝拳)は2016年を「リスタートの年」と位置づける。昨年11月7日、ラスベガスで行われた米国初戦は本人も消化不良の判定勝ち。「重心が後ろに残っていて、これでは強いパンチを打てるわけがないと感じた。金メダリストの実績、ここまで全勝で来ていた自分の立場を、どこかで守ろうとしていたのかもしれない」と自らを省み、プロで1から実績を築き上げていく覚悟を示した。

 WBC4位を筆頭に、世界4団体でランクインしている村田が挑むミドル級は強豪がひしめき、ビッグマネーが動く。挑戦者に抜てきされることすらも、難しい階級である。現在はWBA“スーパー”、WBC暫定、IBFのベルトを巻き、WBA王座は15連続KO防衛中のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)が中心。WBC“レギュラー”王者のサウル・アルバレスとの対戦は今年、最も実現が期待されるビッグマッチでもあるのだ。道のりは険しいが、それだけに日本におけるボクシングのステータスを劇的に変えうる存在として村田にかかる期待は大きい。

 今回、村田が参戦するのは五輪2大会連続ライトフライ級金メダルのゾウ・シミン(中国)がメインに登場し、米国の大手プロモーション会社・トップランクが中国本土で初めて開催する重要なビッグイベントになる。「少々のリスクを冒してでも倒しにいく。村田が挑戦したら面白いと思わせないといけない」と決意を新たにする村田にとっては再度の米国リング登場を含め、商品価値を証明する1年になる。

小原佳太もビッグマッチに挑む可能性も

小原佳太(右)は不運引き分けから再戦が決定。この1戦に勝てば、次の扉が開かれる 【写真は共同】

 村田の米国初戦と同日、東部のマイアミでIBF世界スーパーライト級指名挑戦者決定戦に臨み、優勢に試合を進めながら、まさかの引き分けに終わった小原佳太(三迫)が、今春にも再び米国のリングに上がりそうだ。勢力を拡大しているアル・ヘイモン傘下の興行に組み込まれ、地上波NBCで全米に放映されたウォルター・カスティーリョ(ニカラグア)戦の判定は現地でも物議を醸し、IBFから両者に再戦指令が出された。

 この一戦に勝てば、小原には世界挑戦の道が開けることになる。やや遠回りを強いられた、とも取れるのだが、小原も三迫貴志・三迫ジム会長も前向きに捉えている。ターゲットとなるIBF王座は同じ11月、ロシアでセサール・クエンカ(アルゼンチン)からエデュアルド・トロヤノフスキー(ロシア)に移動したが、再戦になる可能性もあり、待たされたかもしれないこと、その間に米国で試合経験を重ね、さらに名前を売ることができるからだ。

 WBAには4階級制覇の“悪童”エイドリアン・ブローナー(米)、WBOにはスター候補のテレンス・クロフォード(米)、WBCにはロサンゼルスで名伯楽フレディ・ローチに師事しているビクトル・ポストル(ウクライナ)と、群雄割拠のスーパーライト級の中心地は米国になる。少しでも本場の耳目に触れておくことが、後々のキャリアの布石になるかもしれないのだ。再びの挑戦者決定戦を勝ち抜き、頂点にたどり着けば、小原の存在は大きくクローズアップされてくるはずである。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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