ゴルフ界が抱える五輪のジレンマ メジャー優勝の目標と揺れる選手の思い
選手を待ち受けるタイトなスケジュール
これまで五輪に消極的だった石川も、ソニーオープン出発の際には出場へ意欲的な発言も見られた 【Getty Images】
日本ゴルフ協会は、「オリンピック・ゴルフ競技対策本部」を設置して、男女それぞれ8人の選手を強化指定選手に認定している。この認定を受けると、宮崎フェニックス・シーガイアリゾートを国費で使用できたり、国立スポーツ科学センターや味の素ナショナルトレーニングセンターで専門医やトレーナーからのサポートを受けられるという特典がある。しかし、経済的に恵まれているプロゴルファーの上位選手にとって、それにどれほどのメリットがあるのかはよく分からない。
この指定選手は男女ともに世界ランク上位者8人で申請した者から選出されるが、世界ランク102位で日本勢6番手に位置している石川遼は、申請を行わず指定選手になっていない。ゴルフが五輪競技になったことを「ゴルフ普及のために喜ばしい」としていながらも、かねてから「僕には縁がない」と五輪には消極的な姿勢だった石川だが、日本時間1月15日から始まったソニーオープンinハワイへ向けて出発する際には、「五輪はゴルフファンだけではなく、他のスポーツファン、さらにスポーツ観戦をしない方たちも見ます。自分としてはモチベーションが高く、そこを目指していきたい」と一転して目標にすると明言した。
強化指定選手1番手の松山は、「小さいときからメジャー優勝が目標だった。五輪がすごい大会だというのは分かるが、プロゴルファーとしてはどうなのか……」と歯切れが悪い。
それは、スケジュールがかなりタイトになることも関係しているからだろう。7月14日から全英オープンが開催し、2週後の7月28日から全米プロゴルフ選手権だ。そして、その2週間後の8月11日に五輪の男子ゴルフが始まる。
昨年、松山はダンロップ・スリクソン福島オープンとダンロップフェニックスの2試合の日本ツアーに出ている。しかし、今年は「1試合だけになるだろう」としている。福島オープンは7月21日が初日だ。東京からリオデジャネイロまで米国で乗り継いで、機上にいる時間だけでも24時間を要する。昨年、松山は全英オープンと全米プロゴルフ選手権の合間を縫って福島に出場したが、疲労のために思うようなプレーができなかった。
選手が五輪に思い入れを持てるか
日本代表のヘッドコーチに就任した丸山茂樹は、五輪強化委員長の倉本昌弘に、メダル獲得者に対してツアーの複数年シードを付与するように提案しているが、倉本は男子プロゴルファーの団体である日本プロゴルフ協会の会長で、ツアーを主管する日本ゴルフツアー機構とは無縁の立場であり、実現させるのには無理がある。実現するとしても4年後の東京大会以降になるだろう。
世界ランク上位に入っている選手の中にはプライベートジェットを駆使するほど経済的に恵まれている者も少なくない。そうした選手たちが五輪に対して、どれほどの思い入れが持てるかどうかで、大会そのものの面白さが決まる。
出場する60人は、世界ランク300位程度まで含まれると予想されている。つまり上位選手と下位選手の実力の差は歴然で、かなり少人数でのメダル争いになるはずだ。当然、日本勢にもチャンスがある。