「競馬のロマン」ゴールドアクター有馬V ゴールドシップ別れの声に内田が涙
モーリスとともにSS系の対抗軸に
渋い在来牝系とグラスワンダーの血を受け継ぐゴールドアクター、今後の活躍はさらなる競馬のロマンを感じさせてくれるに違いない 【中原義史】
「競馬が上手な馬なので、スタートしたなりで自分でペースを作って、人気馬を見ながらイメージ通りの競馬ができましたね」
ジョッキーのやりたい競馬をすぐに形として実践してくれるこの自在性が、ゴールドアクターの強み。それを証明するように、ここまでの4連勝の道程を見ると、函館→東京→東京→中山。また、札幌でも勝ち鞍があり、菊花賞(京都)で3着もある。競馬場の形態や左右の回りは全くの不問というわけだ。最近では特定の条件で強さを見せるスペシャリストの存在が際立つこともあったが、ゴールドアクターには条件不問のオールラウンダーとしての活躍を期待せずにはいられない。来年の展望に関して、中川調教師は天皇賞・春を目標にすると明言。これを受けて吉田隼は言葉に力を込めて、さらなる飛躍を誓った。
「来年もこのコンビで、競馬にはロマンがあるということをファンのみなさんに見せていきたい」
ゴールドアクターの母系が地味ながらも50年以上つながれてきた日本在来のマイナー牝系である上に、父はスクリーンヒーロー。この産駒からは今年、ゴールドアクターの他にもう1頭、今やアジアのマイル王となったモーリスもいる。共通するのはどちらも今年急激に力をつけ、破竹の連勝でチャンピオンホースにまで上り詰めたことだ。来年以降、スクリーンヒーロー産駒の爆発的な成長力というのは覚えておいて損はなさそう。そしてサンデーサイレンス系の対抗軸として、人気の高いグラスワンダーの血を受け継ぐ血統として、吉田隼が強調するようにゴールドアクターのこれからの活躍は“競馬のロマン”を多分に感じさせてくれるだろう。
最後までゴールドシップとして
個性派のGI6勝馬ゴールドシップが引退、父を超える2世の登場に期待したい 【中原義史】
3コーナーから一気に先頭をうかがう勢いで捲っていったあのシーンは、ひょっとするとゴールドアクターがゴール板を先頭で駆け抜けた瞬間よりも、場内の声が大きかったかもしれない。ディープインパクトやオルフェーヴルが後方から捲ったときも大歓声が沸き起こったが、それらとは声の“質”が違っていたようにも思う。つまり、ゴールドシップの馬券を買っていたファンはもちろん、買っていなかった人までワクワクしてあの3〜4コーナーのシーンを見ていたのではないだろうか?
引退式で横山典弘が一番印象に残っていることを聞かれ、「宝塚記念のゲートでしょうか。何十億という馬券を紙くずにしてすみません」と答えたのだが、それに対し場内からは大きな笑い。もちろん、今でもはらわたが煮えくりかえるほど怒っているファンはいると思うが、あの歴史に残る大失態を笑い話にまでできて許されてしまうのは、ゴールドシップというキャラクターがそれだけ愛されているからだろう。
そして、主戦・内田博幸が「彼らしい走りをしてくれて、自分の中では悔いのないレースができた。自分がケガから復帰してゴールドシップとともに重賞を戦って……」とこれまでの歩みを振り返ったところで、ゴールドシップがまるで内田をねぎらうように大きないななき。それを聞いた内田は、涙でこの後の言葉が出てこなかった。
そんな感動的なシーンを自ら演出したかと思えば、口取りの記念撮影では人垣の間にまったく入ろうとせず後ずさりする一方。ゴールドシップは最後までゴールドシップとして、競馬ファンを魅了してくれた。
今後は北海道新冠町のビッグレッドファームで種牡馬となる予定。順調なら4年後、ゴールドシップ2世がデビューを迎える。父以上の個性派が登場することを願って。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)