“2強”を追う無良崇人の覚悟 芽生えてきた勝利に対する強い欲求

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“自分”というものが足りない

全日本選手権SPの得点を見守る無良崇人。右は父・隆志コーチ 【坂本清】

 もちろん課題はある。特に羽生や宇野にあって、現時点の無良にないものは安定感だろう。羽生と宇野はミスをしたとしても、大崩れすることがない。たとえSPで順位を落としても、FSで巻き返せる精神的な強さもある。

 無良はハマッたときは素晴らしい演技を披露するが、調子が悪いと立て直せない傾向が強い。今季のスケートアメリカしかり、昨シーズンの世界選手権もしかり(16位)。ソチ五輪の出場権が懸かった2013年の全日本選手権でも6位に終わり、涙をのんだ。こうした安定感の欠如は、メンタル面の問題にも置き換えられる。

「僕はどうしても試合や練習で“自分”というものが足りないように感じてしまい、焦ってしまうんです。どういうときでも自分というものをしっかり持たなければいけないなと。周りに翻弄(ほんろう)され、ペースが乱れないようにしなければいけないと感じています」

 無良の父親であり、指導も行っている無良隆志コーチも以前こんな話をしていた。

「性格が優しいので、自分が前に出るタイプではない。周りを見てバランスを取れるし、人の手助けをする子なので、そういう意味では良い大人になったかなと。ただ、競技者として一番になれるかは本人の心持ち次第だと思います。『俺が一番になる』という意気込みをより強く持ってほしい。でもそれは持とうとして持つものではなく、自然と心の中に植えつけられるものだと思うので、今後はそういうものを手にしていってほしいなと思います」

 これまではどうしても弱気な面が出ていた。しかし、NHK杯から全日本にかけて変化もうかがえる。無良コーチの願いどおり、今ようやくそうした勝利に対する強い欲求が芽生えつつあるのかもしれない。

真価を問われるFS

 ソチ五輪出場を逃してから、無良はすぐに次の平昌を目指す決意を固めた。大会時には27歳になっており、年齢的にもそれ相応の覚悟が必要となってくる。ましてや現在のように「4回転ジャンプをどれだけ跳べるか」が勝負を決める1つの要因となっている時代では、年齢に伴う身体的な衰えはハンデになりかねない。

 それでも無良の思いは変わらない。

「ジャンプを飛ばなければいけない競技なので、だんだんきつくなってくるとは思いますが、現役を続けている以上は五輪を目指していきたいと思います」

 今のところ4回転はトウループしかプログラムに組み込んでいない。しかし、NHK杯後にはこうも語っている。

「4回転に関しては、金博洋選手がルッツを成功させたことが起爆剤となって、皆が成功させてくるという流れが生まれるんじゃないかという気がします。五輪までの間にもしかしたらフリップを跳ぶ選手が生まれてくるかもしれないし、アクセルを跳ぶ選手が出てくるかもしれない。1年1年目まぐるしく変わってくる可能性もあるし、それについていけるようにしたいです。僕も4回転アクセルを跳んでみたいと思っています」

 現状ではそれは単なる願望だが、もう1種類の4回転を入れることは考えており、今後も練習を続けていくようだ。

 26日にはFSが行われる。GPファイナルに出場していない無良にとって、2枠しかない世界選手権の出場権を勝ち取るには2位以上の成績が絶対条件だ。昨シーズン、自らの失敗もあり3つあった枠を1つ失っただけに、雪辱を果たしたい気持ちも強い。

「もちろん出たいですけど、そう簡単に行けるとは思っていません。FSは本当に正念場で、自分がどれだけやり切れるかだと思います。ミスすれば落ちる。そのつもりでFSは臨まないといけないと思うので、その中で少しでも上に食らいついていきたい、ゆづについていきたいという思いはあります」

 日本はおろか世界で勝つためにも、SPとFSを2つそろえることは必要不可欠。安定感に課題を残す無良にとって、FSは真価を問われる演技となる。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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