小山伸一郎 “便利屋”の自己証明 中日、楽天でのプロ生活19年を語る

週刊ベースボールONLINE

若手の教材となった田中将大の存在

2013年、田中将大(中央)の活躍もあり、東北に日本一をもたらした。(写真左端が小山) 【写真=BBM】

 紆余曲折を経て、セットアッパーが自分の生きる道となった。起用法はさまざまだったが、持ち前の強い体でそれに応じていく。そして迎えた13年、球団創設9年目でのリーグ優勝、日本一を成し遂げた。2年前に東北を襲った大震災。そこから再び立ち上がる勇気を、楽天が野球を通じて体現したのだった。

――守護神に定着はできませんでしたが、セットアッパーとして08年から12年まで5年連続50試合以上登板を果たします。

 僕はオールスターに出たこともないし、大きなタイトルを取ったこともない。自分で誇れるものといえば、ただ「投げられる」ということだけなんです。体が強くて、ここまでやってきましたから。

――チームのために連投も辞さずというイメージがあります。

 でも、正直に言うと投げたくないという気持ちもありました。やっぱり嫌ですよね、救援という立場は。毎日、風呂に浸かりながら、「これがシーズン最後の風呂だったらなあ」と思うんです。いつ出番が来るかも分からないですし、“便利屋”みたいに、先発が崩れたらロングで投げることもありましたから。いざマウンドに上がれば、「絶対に抑えてやる」と思って投げますけど、待っているときは「できれば回ってくるなよ」って気持ちなんです(笑)。

――複雑な心理ですね。

 ブルペンで準備していると、前の投手が打たれ始めてベンチから電話が掛かってくるんです。「小山、この後に2人ランナーが出たらお前でいくから」と言われる。そういうときって必ず2人ランナーが出るんです! で、気がついたら満塁になっていたりする。「おいおい、ふざけんな!」って感じですよね(笑)。481試合投げさせてもらいましたが、回の頭から気持良く投げた経験なんてほとんどないですよ。

――守護神ならば9回の頭から、あるいは「勝利の方程式」が確立されているのならば7回、8回の頭から。しかし、そうではなかった。

 さっきも言いましたけど、僕は“便利屋”ですから。よくあるんですよ、特に夏場なんか「足つった!」とか。11年に8勝しているでしょ? たぶん川井(貴志)さんの後に投げたのが4回くらいあるんですよ。あの人、“困ったときのボブ”なんて呼ばれていましたけど、本当に助けていたのは僕のほうなんですよ(笑)。

――そして13年、東北に歓喜が訪れます。05年、惨敗の船出から8年後のリーグ優勝、日本一でした。

 想像できなかったですよね。僕が現役の間は楽天の優勝はないと思っていましたから。ただ、田中将大のピッチングが神がかり的でしたし、ケーシー・マギー、アンドリュー・ジョーンズという素晴らしい助っ人が来てくれて。すべてがうまくはまって、化学反応じゃないですけど、選手個々が「いけるんじゃないか」と思えたのが13年でした。

――小山さんはどうでしたか?

 弱い時期を知っているだけに、「無理だよ、できるわけない」と心のどこかで思っていたことは確かでした。若い選手だったら簡単に「優勝できる!」なんて言えるんでしょうけど、97敗を経験している僕からすれば、もうちょっと冷静になれと。

――当時のチームに何か変化はあったのでしょうか。

 選手たちの野球に対する取り組み方が変わりました。田中将大の存在が大きかったと思います。彼はカリスマですよ。特に多くを語る人間ではなく、プレーで引っ張っていくタイプでした。僕も仲良くさせてもらっていたので、若手の選手を引き込むためには良い“教材”でしたね。今の子たちは、何かすごいものに対して乗っかっていく傾向があるんです。僕には実績も何もなかったので、とやかく言うのではなく、まず田中を取り込み、彼と一緒にまとめていった部分はありましたね。

――小山さんは楽天投手陣のリーダー的存在でした。

 田中、そしてチームとしては嶋(基宏)の存在も本当に大きかったですね。彼の言葉には重みがありましたから。彼らと協力しながらまとめて、チームが一つになっていった気がします。

――チームメートに恵まれましたね。

 それもありますし、野村(克也)さんをはじめ、指導者の方々との出会いも大きかったです。ときには投手コーチに反発したりしましたけど、引退した今思えば、何一つ間違ったことはなかったですね。

――16年からはその立場、二軍投手コーチに就任します。

 選手時代もそうでしたけど、選手には極力厳しくしていこうかと考えています。言葉でも練習でも。今の子たちは叱られることに対して免疫がないんです。マウンドに上がってビクビクするくらいなら、それ以前に試練を味わっておいたほうがいい。それは僕が身を持って感じてきたことですから。経験すれば周りも見えてくるし、人間的にも成長できます。コーチという仕事にはやりがいがありますよ。楽天には今、若くて能力がある投手がいっぱいいますから。僕が入った1年目とは比べものになりません。今年は弱かったですけど(苦笑)、ファンの皆さんは楽天を嫌いにならず、そういった選手たちを見るためにスタジアムに足を運んでほしいですね。

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