中学野球を考察――伸びるのは軟式か? 硬式か?

大利実

いまや日本球界を代表する投手となった大谷は中学時代に硬式野球を経験。果たして中学時代に野球をするなら硬式なのか、軟式なのか―― 【写真は共同】

 フリーのライターになって10数年。主に中学軟式野球の取材をしていることもあり、「中学時代は硬式と軟式、どっちをやったほうがいいんですか?」とよく聞かれる。

 はっきり言って、明確な答えはない。というよりも、結論付けるのは難しい。身体能力の高い選手は、中学軟式→高校硬式でも活躍するだろうし、中学硬式→高校硬式であれば早い段階から頭角を現してくるだろう。「うまい選手は、どっちやったってうまいんだよ」と話していた高校の指導者がいたが、本当にそのとおり。うまい選手はうまい。

 しかし、それではここで話しが終わってしまうため、いくつかのデータをもとに実際にどちらが有利なのかを調べてみた。

硬式は約4万人、軟式は約20万人

 まずは、両者の現況を簡単に紹介したい。

 中学硬式はボーイズ、リトルシニア、ヤング、ポニー、フレッシュ、ジャパン、レインボー、スターの8連盟があり、すべてのチーム数をあわせると約1400(参考資料『中学野球太郎Vol.1』(廣済堂出版)より)。選手数は正式な資料が公表されていないので調べ切れないが、4万人ほどという情報を耳にしたことがある。

 一方で中学校の軟式野球部は、2015年度現在8707。生徒数はおよそ20万人である。毎年約2万人のペースで減少しており、「少子化」「野球離れ」が危惧されているが、大規模な組織であることは間違いない。

 ボールは硬球が直径71.9〜74.8ミリ、重さ141.7〜148.8グラム。軟球(B球)が直径69.5〜70.5ミリ、重さ133.2〜136.8グラム。軟球は安全面に配慮したゴム製。高校で軟球から硬球に代わると「大きい」「重い」という声が圧倒的に多い。 

投手は軟式出身者が伸びる!?

 さて、記憶に新しい「世界野球プレミア12」。「侍ジャパン」に選ばれた28名の中学時代を調べてみると、硬式出身が15名、軟式出身が13名という内訳であった。

■侍ジャパン/2015年プレミア12
投手 13人(硬式4人/軟式9人)
捕手 3人(硬式1人/軟式2人)
内外野 12人(硬式10人/軟式2人)

 これをポジション別に掘り下げてみると、少し見え方が変わってくる。【投手13名=硬式出身4名/軟式出身9名】、【捕手・内外野15名=硬式出身11名/軟式出身4名】となり、投手と野手で大きな違いがあることがわかる。

 近年、シニアやボーイズの勢いが増してきているが、それでも高校の指導者からは「投手は軟式出身のほうが伸びる可能性がある」という声もある。なぜという明確な根拠を示すものはないが、ボールが変わることで、初めは慣れるまでに時間がかかるものの、「慣れてくれば、ストレート、変化球ともにキレが増す」。伸びシロありと見ている。

軟式出身が多い日本代表の投手

■日本代表/2013WBC
投手 13人(硬式7人/軟式6人)
捕手 3人(硬式3人/軟式0人)
内外野 12人(硬式11人/軟式1人)

■日本代表/2009WBC
投手 13人(硬式8人/軟式5人)
捕手 3人(硬式1人/軟式2人)
内外野 12人(硬式8人/軟式4人)

■社会人日本代表/2015BFAアジア選手権
投手 9人(硬式6人/軟式3人)
捕手 4人(硬式0人/軟式4人)
内外野 11人(硬式6人/軟式5人)

■大学日本代表/2015ユニバシアード競技大会
投手 8人(硬式7人/軟式1人)
捕手 3人(硬式0人/軟式3人)
内外野 11人(硬式10人/軟式1人)

■U−21/2014 IBAF 21Uワールドカップ
投手 11人(硬式0人/軟式11人)
捕手 3人(硬式1人/軟式2人)
内外野 10人(硬式8人/軟式2人)

■U−18/2015 U−18ベースボールワールドカップ
投手 8人(硬式4人/軟式4人)
捕手 3人(硬式2人/軟式1人)
内外野 9人(硬式9人/軟式0人)

 上記にまとめたのが、各世代の侍ジャパンの中学硬式出身・軟式出身割合である。直近の国際大会に選ばれた代表選手をもとにしている。世代のトップ選手を見れば、ある程度の特徴がわかってくるはずだ。トップチームはプレミア12に加えて、参考までに第3回、第2回のWBCを入れてある。

 7つの代表をすべてあわせると、【投手75名=硬式出身36名/軟式出身39名】で、軟式出身のほうがやや多い。驚くのは、2014年に結成されたU−21の代表である。たまたまのめぐり合わせではあるだろうが、投手11名すべてが軟式出身者で占められていた。

プロでも投手陣は軟式が多い傾向

 では、プロ野球全体で見るとどうか。少々古いデータで申し訳ないが、私も関わっていた『中学野球小僧2011年3月号』(白夜書房)で、プロ野球選手の中学時代の出身チームを調べたことがある。数名ほど硬式か軟式かわからなかった選手がいたため、全選手分ではないが、ある程度の傾向を読むことはできた。

■プロ野球・中学野球の出身内訳・2011年調査判明分
投手 350人(硬式140人/軟式207人/準硬式3人)
捕手 85人(硬式40人/軟式45人)
内外野 282人(硬式168人/軟式114人)
※『中学野球小僧2011年3月号』より

【投手350名=硬式出身140名/軟式出身207名(ほかに準硬式出身が3名)】という結果が出ていた。プロ野球全体を見ても、投手は軟式出身のほうが多いのだ。ちなみにロッテに関しては、投手31名中24名が軟式出身という高比率だった。ただ、見方を変えると、もともと中学軟式の人口のほうが中学硬式の約5倍多いわけで、確率論としてプロ野球の世界までたどりつける人数が多いのは当然といえば当然ではあるのだが……。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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