中学野球を考察――伸びるのは軟式か? 硬式か?

大利実

野手は真逆で硬式出身者が7割

今夏のU−18W杯に選出され、強打を披露した清宮(左)とオコエはともに攻撃的な野球をすると言われる中学硬式野球出身 【写真は共同】

 捕手・内外野を見てみると、投手とは真逆の数字が出ている。

 さきほどと同じように7代表をすべて足すと、【捕手・内外野99名=硬式出身70名/軟式出身29名】。中学硬式出身が、およそ7割を占めている。
 プロ野球全体で見ても、2011年のデータでは367名中208名が硬式出身だ。
 なぜ、これほどまでの違いが生まれるのか。

「守りから入る軟式野球と、攻撃から入る硬式野球。その影響は大きいと思いますよ」と話している高校野球の監督がいて、なるほどと思った。選手だけでなく、指導者の心のなかにも根付いていることだろう。

 軟式野球は得点が入りづらいといわれる。ゴム製のボールのため、バットでとらえたときにボールが変形する。その分、エネルギーがロスし、飛距離が出にくい。ゴロで内野の間を抜けていくヒットも、硬式に比べると圧倒的に少ない。

硬式が攻撃的、軟式は守備的

 参考までに、中学の全国大会の1試合平均得点を紹介すると、どの大会においても硬式野球のほうが得点が入りやすい。2015年の全中(軟式)は1試合平均3.9点、ジャイアンツカップ(硬式)は平均7.9点が入っていた。1点を守るのが軟式野球で、1点でも多く取ろうとするのが硬式野球と考えることができる。

■2015年中学硬式・軟式 得点比較
・軟式
全日本・春 1試合平均得点4.2
全日本・夏 1試合平均得点3.9
全中・夏 1試合平均得点3.9
・硬式
シニア全国  1試合平均得点8.2
ボーイズ全国  1試合平均得点8.4
ジャイアンツカップ 1試合平均得点7.9

 バットの重さも見逃せないところだ。中学軟式で使うバットは700グラム台。これが中学硬式になると、800グラム台が多い。日常的に重いバットを振っているほうが、スイングの力が付きやすい。

 そして、高校硬式では900グラム以上のバットの使用が義務付けられているため、中学軟式出身者はこの重さに苦労することが多い。200グラム近く、一気に重くなり、しっかりと振れるようになるまで時間がかかる。

バッテリーは軟式、野手は硬式

 ここまで、【捕手・内外野】と表記しているが、捕手だけ見ると中学軟式出身者も負けてはいない。7代表22名中、14名が軟式出身。プロ野球ではほぼ五分だ。

 一般的に、捕手はバッティングよりも守り重視。そういう意味で、守りの野球で育ってきた軟式球児でも十分勝負になっているのではないだろうか。

 そう考えると、あくまでもデータを見る限りではあるが、
●バッテリー 中学軟式やや優勢
●内外野   中学硬式が圧倒的に優勢

 と、まとめることができる。

軟式出身のイチロー、硬式出身のダル

 もちろん、軟式からも硬式からもスーパースターは生まれている。

 軟式出身の野手でいえば、イチロー(マーリンズ/愛知・豊山中)が代表格。トリプルスリーを達成した柳田悠岐(ソフトバンク/八幡少年野球クラブ)は広島の軟式クラブチーム出身だ。ダルビッシュ有(レンジャーズ/オール羽曳野)や田中将大(ヤンキース/宝塚ボーイズ)らメジャーで活躍する一流投手は、中学硬式出身である。

 ボールの種類だけでなく、指導者の育成法や練習環境も成長には大きく関わっていく。言うまでもなく、本人の努力や取り組みも。

 とはいえ、内外野に関していえば、中学硬式出身・軟式出身で明らかな差が出ていることも事実だ。

 今後の第4回WBC(2017年)、そして東京五輪(2020年)ではどのようなメンバー構成となるのか、注目していきたい。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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