広島・森保監督が語る成長の自負 競争と我慢で得たJ優勝と世界への挑戦権

寺田弘幸

“新たな広島”でJ1優勝

キャプテンの青山(左)は「新たなうれしさがある」と3度目の優勝を噛みしめた 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 チームが一つになって成長し勝ち取ったタイトルだったからこそ、チームは充実感に溢れていた。

 チャンピオンシップ(CS)決勝を制してシャーレを掲げたあと、青山敏弘が「今年は成長してきたところが非常に大きいと思います。前の優勝は(ミハイロ・)ペトロヴィッチ監督のサッカーが土台にあったけれど、今年はそれが大きく変わって森保(一)監督のサッカーが一年間で非常に成長したと思う。新たなうれしさがあります」と3度目のリーグ制覇を噛みしめた。

 そして、森崎和幸はさらに明るい未来を予見していた。「特にCSになってから、広島で優勝したいと思って入ってきた選手と若い選手が活躍して優勝できた。これは非常に意味のあることかなと思います。今日は(浅野)拓磨が活躍しましたけれど、ウチにはまだまだ将来有望な選手がたくさんいる。そういう選手たちが今後出てくれば、ウチはもっともっと強くなれると思います」。

 2012年、13年にリーグを連覇してからも毎年、主力選手がチームを去っていった。選手が入れ替わることはチームを成長させていく上で難しい要素が多くある。特に今季は、昨季まで攻撃陣をけん引していた高萩洋次郎と石原直樹の二人がチームを去り、攻撃陣の再構築を余儀なくされた。しかし、決してネガティブな要素ばかりではない。広島で挑戦しようと意欲に満ちてやってきた選手たち、そしてポテンシャルを秘めた若い選手たちの活力がチームの成長を促し、15年の広島はかつてない高みに到達した。

選手たちのポテンシャルを信じた森保監督

チームを成長させた“我慢”と“競争”。浅野のスピードはチームの大きな武器となった 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 チームを成長のサイクルに乗せたのが、“競争”と“我慢”だ。15年1月、森保監督は選手たちに「今年は競争が激しくなる」とサバイバルを宣言し、「よりハードワークした姿を見せる」ことを約束した。ペトロヴィッチ前監督が植え付けてきたサッカーを継続するにあたって、欠かせない“阿吽の呼吸”を一朝一夕で築くことは難しい。そのため、競争によって選手たちの個性を引き出していくことを重視しながら、チーム全体には我慢強く戦っていく指針を打ち出して新シーズンのスタートを切った。

 そして、指揮官はシーズンが開幕して壁にぶつかっても動じることなくチームを導いていった。ファーストステージの序盤戦には3試合連続無得点の厳しい現実と向き合うことになっても、森保監督は「やり続けるだけ」と毅然(きぜん)と語った。「今シーズンは相当我慢が必要だと思っていましたし、今も思っています。その分、守備で粘り強くやっていくことをやっていますし、続けていくことで必ず攻撃の部分は上がっていくと思っています。経験の浅い選手が、Jリーグのトップレベルに慣れて爆発してくれるのを期待しています」。選手たちのポテンシャルを信じ、同時に守備における我慢強さを求めていた。

 その指揮官の期待に応えるように、今季から加入したドウグラスがチーム戦術に溶け込んで自分の個性を発揮していき、浅野が自身の壁を破ってみるみる成長していく。「走れるか、戦えるか」。指揮官の明確な評価基準の下、チーム内の競争に勝った選手たちの特徴を生かして15年版の攻撃の型が形成されていった。ドウグラスはこれまでの広島になかった推進力と高さをもたらし、スピードに溢れる浅野は試合途中からピッチに立ってチームの大きな武器になっていく。

 縦に速い攻撃がハマっていくとともに、森保監督が求めてきた我慢によってペトロヴィッチ前監督が構築してきたサッカーのメンタリティーを変化させていった。「今年は粘り強く戦いながら、少ないチャンスをモノにするという戦い方の方が合っている」(森崎和)。前線の個の力を生かしてゴールに迫っていく特性を生かすためにチーム全体で取り組んでいき、たとえ主導権を握れなくても、「我慢強く耐えていれば、絶対にこっちの流れになる」(林卓人)というメンタリティーが根付いていく。そして、チーム全体でハードワークの強度を高く保って我慢強く耐え、しぶとく勝利を収めていった。

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著者プロフィール

1980年生まれ。広島県出身。2007年からライターとして活動を開始し、サッカー専門新聞『EL GORAZO』にてサンフレッチェ広島とファジアーノ岡山を担当。著書に『束ねる力 新時代のリーダー・サッカー日本代表監督 森保一』(ELGORAZO BOOKS)。ファジアーノ岡山の生の情報を届けるWEBマガジン『ファジラボ』を運営。

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