「史上最強の3位」が残した教訓 J1昇格プレーオフ決勝 福岡対C大阪

宇都宮徹壱

ウェリントンを封じ、玉田のゴールで先制したが……

後半15分、玉田のゴールでC大阪が先制。だが、先制された状況を想定していた福岡は冷静に対処 【宇都宮徹壱】

 前半、私はメーンスタンドから向かって左側、すなわち福岡が攻めるゴール裏からカメラを構えた。福岡の攻撃の核であるワントップのウェリントン、そして2シャドーの城後寿と酒井宣福の3人をC大阪がどう抑えるのかを確認したかったからだ。順位が下のC大阪は、ドローで良かった準決勝とは異なり、この試合では是が非でも勝たなければならなかった。しかしながら、守備が堅い福岡から大量得点は期待できそうにない。となれば、前半は相手の攻撃を封じて0−0で終え、後半勝負というゲームプランとなることが予想された。

 実際に試合が始まってみると、C大阪は戦前の予想以上に積極的に前に出てきた。「ホーム扱い」ながら実質アウェーの福岡は、前半は守りに回る時間が多くなり、カウンターで活路を見いだすしかない。しかし頼りのウェリントンは、茂庭と山下達也のCBコンビ、そしてボランチの山口蛍に封じられ、ほとんど仕事をさせてもらえない。さらに前半24分には、酒井が右足のアクシデントでリタイア(金森健志と交代)。心理的に優位に立つC大阪は、理想的な形で前半を0−0で終えた。

 後半15分、ついにC大阪に待望の先制ゴールが生まれる。ドリブルで持ち込んだ玉田が、関口とのワンツーを挟んで縦に抜け出し、得意の左足で福岡GK中村航輔が守るゴールに流し込む。勝たなければならないC大阪にとっては、大きな、本当に大きな1点。しかしこのまま逃げ切るには、残り30分はあまりにも長過ぎた。福岡の指揮官、井原正巳は立て続けにメッセージ性の強い交代カードを切り続ける。後半28分、中原秀人に代えて運動量豊富な坂田大輔を投入。そして39分には、3バックの一角である堤俊輔を削って4バックとし、中原貴之を前線に送り込んで2トップとする。

 これに対して大熊監督が最初に切ったカードは、後半33分の橋本に代えて扇原貴宏を投入。指揮官いわく「中盤を安定させて、もう1点」というメッセージだったようだが、結果として中盤のバランスが微妙に崩れてしまい、福岡の猛攻を許してしまう。そして迎えた後半42分。坂田がドリブルで抜け出して、左サイドに展開した金森さらに亀川諒史へとボールがつながり、亀川の折り返しにファーサイドの中村北斗が右足ダイレクトで逆サイドのネットを突き刺す。これで1−1となり、追う者と追われる者との立場は再び逆転した。

 C大阪はその後、中澤聡太とエジミウソンといった長身選手をピッチに送り込み、パワープレーによる形勢逆転を試みる。だが、この展開も想定済みだったようで、福岡は4分のアディショナルタイムも慌てることなく、相手の猛攻を冷静に弾き返していった。やがて、タイムアップのホイッスルが鳴り響く。喜びに沸く福岡の選手たちと、がっくりとピッチにひざをつくC大阪の選手たち。試合後のコントラストは、今年も実に明快であった。

福岡の強さを支えた「信じること」と「続けること」

5シーズンぶりとなるJ1復帰を果たした福岡。C大阪が対戦相手から学ぶべきところは少なくない 【宇都宮徹壱】

 果たして、福岡とC大阪の明暗を分けたものは何だったのか。この試合の局面、局面での話であれば、いくらでも語ることはできよう。だが、より長いスパンで捉えた場合、試合後の会見で井原監督が語った言葉に、すべてが凝縮されているように私には感じられた。キーワードは「信じること」と「続けること」である。

「(C大阪に先制されても)まだ30分あった。それに今週ビハインドを想定した練習や2トップにするやり方もやっていたので、そのへんは(対応が)スムーズだった。しっかり準備してきたので、スタッフも慌てなかったし、選手もそれを信じてプレーできたのが(失点して慌てなかった)要因だと思います」

「開幕から3連敗して最下位になりましたが、3試合目の(コンサドーレ)札幌戦で3バックを試して、結果として負けたけれど手応えをつかむことができたのは大きかったです。そこから11試合、負けなしを続けることができたのは、3連敗を悲観せずにブレずに続けられたことが大きい。スタッフも選手も、信じてやり続けられたことで結果を出すことができたと思います」

 あくまでも結果論だが、今季のC大阪は1シーズンでのJ1復帰に固執するあまり、アウトゥオリを最後まで信じることができず、土壇場で指揮官を替えたことで継続性も失われてしまった。もちろん「間違っていた」と判断して正すことの勇気は尊重すべきだし、フロントも苦渋の決断であったと察する。それでも、昨シーズンは監督を3人も替えながらJ1残留を果たせず、今季は土壇場で監督を替えながらもプレーオフでの昇格を逃したという現実を踏まえるならば、今日の対戦相手から学ぶべきものは少なくないのではないか(もっとも当の福岡にしても、J2に降格してしばらく迷走した時代があったことは留意すべきだろう)。

 最後に、今回のプレーオフについて手短に総括しておきたい。今大会の一番のトピックスは、3位チームが初めて昇格を果たしたことに尽きる。ただし福岡は、過去3大会の3位とは明らかに異なる「史上最強の3位」であった。何しろ、6位長崎との勝ち点差が22もあったのである。3位から6位の勝ち点差は、12年大会が3、13年大会と14年大会はいずれも4であった。ところが今大会の福岡は、4位のC大阪に対しても15ポイントも引き離していたのである。

 確かにプレーオフには一発勝負の怖さがあるし、上位チームには「引き分けでもOK」という危険なトラップ(わな)もある。しかし今大会の福岡は、リーグ戦で培ってきた経験と自信をそのまま持続させ、さながら準決勝と決勝を「第43節と第44節」のように戦うことで、最後の昇格枠を手にすることができた。これを「史上最強の3位」と言わずして何と言おう。と同時に、このプレーオフも回を重ねることによって、リーグ戦での実力が正当に反映されつつあるようにも感じる。晴れて昇格した福岡には、プレーオフを経てJ1残留を果たした、初めてのチームとなることを切に期待したい。

<文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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