最先端をいくラグビーのデータ活用法 日本代表アナリストが語るW杯への準備

エディージャパンはW杯に向け、どのような準備をしたのか。アナリストの中島正太に語ってもらった 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 ラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会で、当時、世界ランク3位の南アフリカから歴史的勝利、過去最多となる3勝を挙げるなど大躍進を遂げた日本代表。目標とするベスト8進出はならなかったものの、その戦いぶりは世界中から称賛された。

 その躍進を陰で支えたアナリスト・中島正太の存在をご存知だろうか。中島はチームの分析担当として、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)をはじめ、各コーチのニーズに合わせたデータを用意。そのデータ活用法は対戦相手の分析からトレーニングメニューの構築、選手へのコーチングと多岐にわたる。エディージャパンはW杯に向け、どのような準備をしたのか。知られざるアナリストの仕事の一端を語ってもらった。

「準備の前段階の準備」をするのが仕事

主な仕事は「準備の前段階の準備」と語る中島。コーチ5人のニーズに合わせてデータを準備していた 【スポーツナビ】

――まずは日本代表における役割を教えてください。

 役割は分析担当アナリストです。エディー・ジョーンズ体制はコーチがエディーを含めて計5人いるのですが、5人がそれぞれ試合に向けて行う「準備の前段階の準備」をすべて私がまかなっています。チーム全体で一つということではなく、主に映像とデータを使って各コーチのニーズに合わせた情報をそれぞれ提供しています。

 例えば、スクラムコーチのマルク・ダルマゾに対しては試合の映像に加えて、三上(正貴)がスクラムを組んでいるシーン、堀江(翔太)がスクラムを組んでいるシーンというように、対戦相手1人ずつとスクラムを組んでいるシーンの映像データを集めて提供します。

――分析には他にどのようなデータを使うのでしょうか?

 対戦相手によってコーチがどういう準備をしたいのか。それによってデータは変わります。ダルマゾコーチは、ビデオをベースに対策を立てる人なので、対戦相手ひとりひとりのスクラムの組み方の映像を集めます。それを渡してから、この選手が来たときには、腕をこうした方が良いとか、脚を少し近づけた方が良いというように細かな修正を加えます。

 FWコーチのスティーブ・ボースヴィックはより詳細なデータを求めます。グラウンドの場所別に、どういったラインアウトの構成なのか、誰が一番多く取っているのか、どこがうまく取れていないのか。詳細なデータを提示し、W杯で南アフリカと戦うのであれば、ラインアウトはこの人数が良いとか、前の方で取った方が良いといった対策を考えます。そういうデータを私が渡し、コーチがプランを立てていく形ですね。

――アナリストの一般的なイメージは数字を駆使し、データを分析するというものだと思います。映像の編集も重要なのですね。

 かなり重要です。ただ、映像を見てこういう傾向があるなと感じてデータを見てみると、やはりそうだなと思うことがあります。感覚的なものを確認する客観的なデータとして、照らし合わせるために使うことが多いですね。

 データを見てある程度のイメージを膨らませてから映像を見る人もいれば、映像で傾向を見てから、データを確認している人もいます。ラグビーは試合中もパソコンで映像を見ることができるので、試合中に重要な情報の8〜9割は映像になりますね。

ラグビーを取り巻く環境が大きく変化

試合中はコーチボックスでデータを分析。アナリストの仕事は采配にも影響を及ぼす 【写真:アフロ】

――主な仕事は「準備の前段階の準備」というお話ですが、試合中は何をしているのでしょうか?

 コーチボックスというコーチ陣とアナリストが入る席にいます。そこにはテレビ局から5つのアングルから取った映像が送られてくるんですね。それをコンピュータに入れて、僕が分析した映像とデータを、コーチのパソコンに送るようになっています。

 例えば前半40分頃に、前半10分のスクラムを確認したいと思えばすぐ見ることができますし、前半20分のミスタックルのシーンも映像で振り返ることができます。僕が入力したデータはスタッツとなって、常に見ることができる状況にあります。HCから質問があった時には、それに関する数字を答えられるよう準備しています。

――試合中の分析は、試合にどう影響するのでしょうか?

 選手のパフォーマンスもそうですし、ハーフタイムにHCが話す内容にも影響します。先のW杯でも、日本はやらなかったのですが、ロッカールームもインターネットがつながっていたので、パソコンを置いておけばコーチボックスで作った映像をロッカールームで見ることができますし、グラウンド上でも確認が可能です。基本的にはその試合の修正をするための準備を常にしています。

――そういった分析を可能にするソフトウェアができたのは大きいですね。

 分析ソフトができ、発展を続けてきたことによってアナリストの作業が劇的に進化し、試合会場でテレビ局から映像を配給してもらうことが当たり前になった。ロッカーやグラウンドでも共有できたら良いという考えから、インターネットがつながって映像やデータを見られるようになりました。分析ソフトの向上とそれに合わせたチームのリクエストが増えたことで、ラグビーを取り巻く環境がどんどん変わってきている感じですね。

 ロッカーやグラウンドのインターネット環境が整ったのは今大会からですし、5つのアングルの映像が届くようになったのは前回大会(ニュージーランド)からです。

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