「少しずつ、着実に」進化する宮原知子 弛まぬ努力の末にたどり着いた目標の舞台

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感情を表に出すように心がける

 以前からの課題である表現力については、パントマイムを習ったり、今季はシーズン開幕前に宝塚歌劇団の先生に教えを請うたりと、さまざまな方法を取り入れている。それに加えて昨季あたりから、感情を表に出すように心がけた。

課題の表現力にも磨きがかかってきた 【坂本清】

 今年4月の国別対抗戦では、日本チームの一員として、被り物をして応援を盛り上げた。キャプテンの無良崇人(洋菓子のヒロタ)からは「チームの中では一番シャイで大人しいイメージの知子ちゃんが頑張って応援してくれた」と、MVPに選ばれている。

 NHK杯ではショートプログラムとフリースケーティング(FS)のあとに、おどけた表情を見せたり、ピースをしたりとこれまでとは違った一面をのぞかせた。宮原自身も手応えを感じつつあり、実際にNHK杯のFSでの演技構成点は浅田に次ぐ2位だった。

「これまで表現の面でいろいろな先生に習ってきました。魅せ方とかを勉強して1年ごとにだいぶ良くなってきていると思うんですけど、まだまだ海外の選手に比べたら控えめな感じがあるので、もう少し弾けられるようにしたいです」

 もちろん生まれもっての性格はすぐに変えられるわけではない。そのため、演技中は別の人物になったつもりで踊っているのだという。リンクの上で華麗に舞っている宮原は彼女であって、彼女ではないのだ。

 宮原の表現力が向上していることについて、濱田コーチは別の見解を持っている。

「日本だとお客さんの反応が多いじゃないですか。1人や2人に向けてやっていたら白けると思うんですけど、皆さんに見ていただいているということが彼女の表現力を伸ばしている要因だと思います」

ここまで来られたのは努力の成果

 蚊の泣くような小さな声で、メディア対応をしていたのはわずか3年前の全日本選手権。マイクを通して話しているにもかかわらず、その声はほとんど聞こえなかった。広報や報道陣から「もう少し大きな声で話して」と言われていたのはもはや過去のことだ。現在も他の選手と比べれば小さいのだが、トップ選手としての貫禄も出てきつつある。

「単純にうれしいですよね。GPシリーズの優勝は初めてだし、『ここまで来られたのもあの子の努力の成果なんだな』と、君が代を聞きながら思いました」

 濱田コーチはそう語り、教え子の成長をかみしめていた。

 NHK杯の結果、宮原はGPファイナル進出を決めた。昨シーズンから言い続けていた目標の舞台へついにたどり着いたのだ。優勝を決めた翌日、大会に向けた意気込みを問われた宮原はこう答えた。

「これからすぐにファイナルがあるので、気持ちを切り替えないといけないと思います。自分のできることをしっかり試合で出せれば、世界のトップ選手とも争える点数を出せると分かったので、自信を持ってしっかりできるようにしていきたいです。ファイナルに出場する選手は本当に全員が素晴らしい選手なので、自分も食い込んでいけるように思い切り滑りたいです」

 少しずつ、着実に進化してきた宮原の小さな体には無限の可能性が詰まっている。その力を発揮できれば、頂点の座も自ずと見えてくるだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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