開幕から1カ月、接戦の続く男子Vリーグ 高まるサーブとチーム戦術の重要性
熱を取り戻した会場
W杯での大活躍が記憶に新しい柳田。彼を目当てにVリーグの会場に連日多くの観客が詰めかける 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
ここ数年は「観客を数えられるのではないか、と思うぐらい閑散とした会場もあった」と選手も自虐気味に振り返るほど、熱を失っていた会場に多くの観衆が訪れる。多くの場合、柳田将洋(サントリー)や清水邦弘(パナソニック)など、ワールドカップ(W杯)で活躍した選手たちがお目当てであることも事実だが、会場を埋め尽くす観衆の中でプレーすることは、選手のモチベーションアップにつながるのは間違いない。
ただし、その現状にただ甘えるばかりではなく責任の強さも今まで以上に感じると言うのがW杯で主将を務めた清水だ。
「たくさんの方々に見てもらうことは本当にありがたいこと。だからこそ僕たちは『来てよかった』と感じてもらえるようなプレーを見せなければならないんだと強く思います」
サーブは「勝つために攻めるもの」
選手の中に生まれたサーブへの意識の変化。W杯効果が生じているのは観客数だけではない 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】
なかでもヴコヴィッチ監督が「大きく進化した」と述べるのがサーブだ。
創部84年で悲願の初優勝を遂げた昨年、JTの大きな武器は越川優、レアンドロ・ヴィソットに代表される「ストロングサーブで確実に得点へつなげる」ビッグサーバーの存在だった。たとえ3、4点のビハインドがあっても終盤のサーブで試合をひっくり返すことも1度や2度ではなく、対戦チームにとってJTのサーブ力はまさに脅威であった。
今季も越川、ヴィソットのサーブは高い効果率を残しており、JTにとって変わらぬ大きな武器であるのは間違いないのだが、ヴコヴィッチ監督は自チームだけでなく、他チームや、選手個々人の「サーブ」に対する意識が変わってきていることが、昨シーズンと今シーズンの大きな違いであると言う。
「私が日本に来た頃(2013年)は、越川、イゴール(・オムルチェン/豊田合成)ぐらいしか、強烈なサーブで得点できるサーバーはいなかった。しかし今は各チームに強力なサーブ力を持った選手を擁し、時にはリスクを冒しても『攻める』『攻めなければならない』という意識を強く持ち、そのための技術を磨いている。これはとても大きな変化です」
ヴコヴィッチ監督と同様に、各チームの戦力や意識の変化を唱えるのは、かつてノルウェーでさまざまな世代のナショナルコーチを務め、昨シーズンから堺ブレイザーズを率いる印東玄弥監督も同様だ。
ヴコヴィッチ監督のように手放しで褒めるばかりではなく、印東監督は課題も提示する。例えば、ミドルブロッカー(MB)の選手で相手を崩すサーバーが少ないことや、リスクがあるとはいえサーブミスを一定の数字以下に抑えつつ、崩せるサーブをコンスタントに打てるレベルには到達していないことを例として挙げ、「全体のサーブ力が上がったかといえば今はまだ微妙な段階」と語っている。とはいえ、昨シーズンまでとは異なるプラスの変化も述べる。
「W杯で石川(祐希/中央大)くんや柳田くんのような若い選手が、勝つために思い切ってサーブで攻める。それを見て選手たちの中に『勝つためにはサーブで攻めなければならない』という認識は確実に広まっています」
サーブは「ミスしてはいけないもの」ではなく「勝つために攻めるもの」という共通認識が生まれ、選手たちが実践していること。W杯効果が生じているのは観客数だけではない。世界を視野に入れれば「まだまだ」とはいえ、確実な変化をもたらしているのは確かだと言えるだろう。