沖永良部高の歴史を変えた選手権予選 奄美に浮かぶ小さな島のサッカー部
県予選初勝利も2回戦で強豪に大敗
「群内では強くなっている」と林監督は教え子たちを称えた 【平野貴也】
たったの1勝だが、学校にとって選手権の県予選は初勝利。しかも、神戸合宿のかいがあり、相手の攻撃には驚くことなく対処できたという。むしろチャンスを決め切れないことが課題に残り、内容面でも充実の一歩を踏むことができた。
同校OBである林健太郎監督は「一昨年の新人戦では8強に入ったけれど、選手権予選では初勝利。まだ県予選の出場が4回目。私たちのときは、島の予選を一度も勝ち抜けなかった。群内では強くなっている。今回は1つ勝てたことで、また前に進む力をもらったと思う」と後輩でもある教え子たちを称えた。
しかし、鹿児島県は全国でも上位を狙えるチームがひしめく激戦区。2回戦では、全国4強の経験もある神村学園に0−5で敗れた。前半10分に失点した後、神戸合宿で培った粘り強い守備で長く劣勢を耐えていたが、後半24分に2点目を奪われると歯止めが利かなかった。それでも「1点、取って帰るぞ!」を合言葉のように叫びながら、試合終了の笛が鳴るまで全員で戦い続けた。
初戦で歴史を変えたとはいえ、大敗の悔しさを和らげることはできない。林監督は「2点目を取られるまでは我慢できればと思ったけれど……。2点目を取られて最後は点を取りに行ったら、1対1の強さ、球離れの速さにやられてしまった。勝たせてあげたかった。これを言ったら笑われますが、彼らが決めた目標は県予選の優勝で、本気で目指して来ましたから」と顔をしかめた。
それでも、強豪を相手に渡り合った時間には、これまでの努力が詰まっていた。大久保は「胸を借りるつもりで、チャレンジャーとして挑んで、集大成の選手権で最後まで楽しむことはできた。終盤は怒とうの攻撃でやられてしまって悔しかったけれど、仲間や支えてくれた人たちのおかげで、最後の最後で(県予選で)勝つことができて本当に良かった。高校サッカーをやって良かったな、という大会にはできたと思う」と晴れ晴れとした表情で話した。
沖永良部も目指した憧れの大舞台
初勝利を収めた1回戦で最後のPKキッカーを務めた2年生の盛山(左) 【平野貴也】
2年生は、また来年に躍進を目指す。盛山は「今日もOB、県内に住んでいる島の出身の方、昨年まで学校にいた先生、小中学校の時の先生がいっぱい応援に来てくれていた。今回はベスト16だったので、来年はまずインターハイ(高校総体)でベスト8に入りたい」と感謝を示しつつ、新たな一歩を踏みしめる決意を明かした。
敗れた2回戦の当日、彼らは18時出航の船に乗り、また18時間をかけて島へと戻った。12月30日から始まる全国大会は、プロ選手の輩出や日本一を目指す強豪ばかりでなく、小規模の離島の高校までを含めたすべての高校サッカー部の思いが詰まったドラマの最終章だ。どんなサッカーが、ストーリーが、展開されるのか。多くの者が憧れた舞台に、多くの眼差しが注がれる。